ドレミが弾ければウォークドントランは弾ける!
「ベース借りられてよかったね!」
「あの、えっと、ありがとう、ございます……」
美奈ちゃんは調ちゃんのおじいさんから生徒さんの練習用ベースを1本貸してもらえることになった。同じメーカーで同じようなデザインのやつ。見た目あまり変わらないのに4~5万くらいで買ったらしい。楽器の値段は不思議だ。
「そうだ、しずくさん。これよ」
そう言って調ちゃんが取り出したのは────
「ああっ、これが……えっとなんだっけ」
「スタインバーガーよ」
「そうそれ! わぁ、小っちゃいね。でもかっこいい!」
本当に必要なものしかないって感じだ。ヘッドがないとすっきりするんだね。わたしもお金貯めて買おうかな。
でもお高い……あれ? 調べてみたけど、新品でも5万しないのか。よし、がんばろう。
お? ベースもあるんだね。みんなでスタインバーガーも面白いんじゃない?
「それであの、週2で通わせてもらうんですが、えっと、練習……」
「練習一緒にする? わたしは大歓迎だよ!」
みんなでやったほうが楽しいもんね! 楽器は違うけど初心者仲間だ!
「しずくさんがそれでいいなら私は構わないわよ」
「ぜ、是非お願いします。えっと、調……先輩?」
「惜しい。調ちゃんはわたしらの1こ下だよ」
「ええっ!?」
「なにがどう惜しいのよ。それにそんな驚かないでくれないかしら」
「ご、ごめんなさい……」
調ちゃん、落ち着いているから大人びて見えるんだよね。わかるよ。
「それじゃ早速練習しに行こうか!」
そんなわけで、いつもの公園。屋根のある長いベンチには、調ちゃん、わたし、美奈ちゃんという順で座っている。
「えっと、その、私はどうすれば……」
「フレットのあるエレキベースなら、ギターと練習方法は一緒よ。しずくさん教えてあげて」
「はぁい。あれ? フレットのないベースもあるの?」
「そもそもウッドベースにはフレットなんてないわよ」
ウッドベース? 木製のってわけじゃないよね、多分。エレキギターの元がクラシックギターみたいな感じの楽器なんだろう。
「ウッドベース……楽器名として正しくはコントラバスね。オーケストラとかで使うやつ。これをエレキギターのようにピックアップを付けたりしたのがエレキベースよ。本来ウッドベースはヴァイオリン同様に弓で弾くものらしいけど、特に興味がないからよくわからないわ」
へー、ベースってコントラバスなんだ。
それにしたって調ちゃんはほんとギター……エレキギター特化だよねぇ。
「フレットがない場合ってどう練習すればいいんだろうね」
「そんなもの触る気もないから知らないわ」
だろうね。後で調べてみよう。
「えーっと、じゃあまずどこか押さえて……ピッキング?」
「人差し指でアップ、親指でダウンかしらね」
「ピック使わないんだ?」
「ベースで使うかは知らないわ。でもベースだったら素手のほうがかっこいいんじゃない?」
ほんとギター以外は雑だなぁ。だけど確かに素手のほうがベースベースしてるかも。
「そんじゃまあ、そんな感じで左手は小指まで使って指使いの練習をしていてね」
「は、はいっ」
美奈ちゃんはこれでいいだろう。んじゃわたしは──
「しずくさん、ドレミは弾けるようになってるわよね?」
「うん」
試しに弾いてみせる。途中で詰まることなくスムーズに折り返しもできる。この程度じゃ自慢にすらならないけど、ミスなくできたことに満足。
「じゃあ次の課題曲に行けるわね。変形ウォークドントラン’64よ」
「変形なの?」
「イントロだけ普通のウォークドントランにしてるのよ。おじいちゃんが言うには、当時このアレンジが流行ってたらしいわ」
そういって調ちゃんは曲を流した。
「えー、これ難しくない?」
「なに言ってるのよ。ドレミが弾ければ弾けるわよ。じゃあ私が弾くから左手だけ見てて」
どれどれ……あっ、ほんとだ! ほとんどドレミみたいなものだ!
「最初のコードだって、Fコードをずらしていくだけだし。Fは大丈夫よね?」
うん。なんちゃってFだけどね! Fの感じで人差し指の位置が5フレ、3フレ、1フレ、……0フレ? みたいにずらすだけだ。
「あとはクロマチックラン……あのテケテケの部分ね。簡単でしょ?」
ワイプアウト特訓でピックが引っかからない弾き方ができるようになったし、スライドも大丈夫!
……あっ、わたしが今までやってた練習が全部繋がってる!?
凄い、わたしは何気にやっていたことなのに、ちゃんと筋道があったんだ。感動。
よぉし、練習に気合が入るぞ!
「じゃあミから入るから──」
「そういえば楽譜とかないの?」
調ちゃんは毎回音階を言いながら押さえている弦を見せてくれる。わかりやすくていいんだけど、普通楽譜見ながらやると思ってたからちょっと気になった。
「少し思うところがあるのよ。あなたも私の生徒なんだから実験に付き合いなさいな」
実験! 今実験って言った!
「わたし、モルモットだったの!?」
「そんなつもりはないわしずモットさん」
「しずモット!?」
「モずくさんのほうがよかった?」
それ海草だよね!?
「冗談はさておき、これはあなたのためにもなるんだから」
「ほんとかなぁ……具体的には?」
ちゃんと納得いく理由が欲しい。
「あなた楽譜は読める?」
「えー……音楽の授業で習った程度には……」
「じゃあ
「うん、理屈はわかるよ。便利だよねぇ」
「でも私はあなたにTAB譜慣れして欲しくないのよ」
おや?
調ちゃんが言うには、TAB譜に慣れると違う弦で出せる同じ音の理解が鈍るというのだ。
それにちゃんとした楽譜に慣れたほうが、他の楽器の楽譜も使えるから応用の幅が広がると。
どちらにせよ楽譜に慣れることは、プラスになってもマイナスになることはないみたいだし、それはいいんだけど……。
「じゃあ普通に楽譜を見せてくれればいいんじゃない?」
「だから実験って言ってるじゃない。私が口で教えて、覚えたときあとで無地の楽譜渡すから、そこに音符を並べてもらうわ」
それハードル上がってない!?
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