調、異次元の「運命」

 公園に行ったら調ちゃんの周りをヤンキーが囲ってた。やばい。

 んー、あれ、でもギターとか持ってるからバンドとかやってるひとなのかな。

 よくわからないし、少し様子を見よう。


「ねえきみ、どれくらい弾けるの? 俺たちが教えてあげようか?」

 ……ナンパだった。

 えーっと、どうしよう。わたしナンパとかされたことないし、昔の友達とかでもナンパにあっていた子とかいなかったから、対処方法がわからない。

 もう少し、もう少しだけ様子を見ておこう。


「……お兄さんたち、上手いの?」

「バンド2年やってるからね、かなりできるよ」

「……へぇ」

 調ちゃんがにやりと笑い、アンプにシールドを挿した。


「じゃあ一曲弾くから、同じくらいのレベルだと思う曲弾いてみて?」

「えっ? お、おう」

 挑戦的な調ちゃんの言葉に少したじろぐバンドのひと。


「じゃあいくわよ。楽曲は寺内タケシの『レッツゴー「運命」』」

 バンドやってるってひとたちは少し小ばかにするように「なんだよレッツゴーって」みたいなことを笑いながら言っているが、調ちゃんの目がマジだ。きっと全力を出してくるだろう。


「おっ、普通の運命じゃん」

 へらへらしながらバンドやってるひとたちが調ちゃんを見ている。

 まあそれほど難しいって曲じゃないし……ん?

 んん? ……ええぇ……。

 なにこの途中からのピッキング。左手の動きは凄いってほどじゃないけど、右手がやばい。あとどこ押さえてどの弦弾いてるのかよくかわらない。バンドやってるってひとたち、ドン引き。


 演奏を終えた調ちゃんは、ギタリストらしき相手に顔を向ける。相手のひと、すっごい目が泳いでるけどできないのかな。


「そ、そろそろ時間じゃね?」

「お、おう。そうだな。悪いね、忙しいんだ」

 バンドのひとたちは慌てて去って行った。

 やば、調ちゃんと目があった。すっごいじと目でこっち見てる。


「あのー調ちゃん?」

「見てたでしょ。年上なんだから助けなさいよ」

 いやもう、それに関しては本当にごめんなさい。


「そうなんだけど、演奏が凄すぎて圧倒されちゃって……」

「そうでしょうね。あの曲はああいうちょっと練習しました程度の人間が弾ける曲じゃないから」

 わたしだったら途中で右手が死ぬ。

「エフェクトを入れないほぼ生音だからミスをごまかせないし、技術うんぬんよりも右手がどれだけ使えるかの勝負。これを弾けるようになるまで大変だったんだから」

 ワイプアウト特訓であれがどれだけ凄いことをやっているか理解できる。たかだか2分ちょいくらいの曲だというのに、エアギターでも真似できる気がしない。


「なんでまたそんな曲を練習しようなんて思ったの?」

「おじいちゃんが約束してくれたのよ。あれを弾けるようになったらこのギターをくれるって」

 調ちゃんがギターをぎゅっと抱きしめる。

「リッケンバッカーだよね。かっこいい」


 まだ勉強したばかりだからそんなに種類知らないけど、かなりかっこいい部類だと思う。あの三角の穴いいよね。中は空洞なのかな。


「なに覗いてるのよ。やらしいわね」

「ちがっ、そ、そんなつもりじゃないって!」

「冗談よ。なによギターのやらしい部分って」

 くぬぅ、たまに調ちゃんは真顔で冗談言うから困る。


「ちょっと中が気になったんだよ」

「リッケンバッカーはセミアコの部類だから基本空洞よ。センターブロックとか配線くらいね。そういえばモズライトにもセミアコはあるのよ」

 へぇー、知らなかった。てかモズライトってこれだけだと思ってた。


「他のギターにも興味でもあるの?」

「ないとは言わないけど、わたしはまずこれでちゃんと弾けるようにならないと」

「そうね。でもギターを弾くテンションを保つために買い続けるってひともいるし、悪いとは言わないわ」

 わかる! 新しいの買ったらきっとわたしもテンションあがると思う。


「ちなみに調ちゃんは他にギター持ってるの?」

「そりゃ持ってるわよ。これもらう前までどうしてたというの?」

 そっか、リッケンバッカーもらうまでは他ので練習してたわけか。

「なに持ってるの?」

「ストラトキャスターとスタインバーガーよ」

 ストラトキャスター知ってる! 2大ギターのひとつだ。

 アコースティックっぽいデザインのレスポールと比べ、ザ・エレキギターって感じのデザインをしている。モズライトも似たような形だね。


「スタインバーガーっていうのは?」

「最低限のギターって感じね。ヘッドもないし、ボディも小さい。持ち運びに便利なのよ」

「ほぉほぉ、どっかに持って行くの?」

「今年修学旅行があるのよ」

 そういえば調ちゃんは1こ下の中3だった。旅行先にも持って行くんだね。てかわざわざそのために仕入れたのか。


「あなたもギターに人生かけるのなら、トラベルギターは持っておいたほうがいいわよ」

 えっ!? わたし、いつの間にかギターに人生かけることになってる!?

 わたしはただ、祖父がどんな青春時代を送っていたのか知りたいなって程度だったんだけど……。だけどそれなりに有名なバンドマンだったっていうし、かなりの情熱を向けていたんだろうなってことはわかる。


 わたしも今までよりも、もうちょっとギターがんばろう。

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