必殺! なんちゃってFコード!
「それじゃ約束だし、簡単なコード進行教えるわ」
調ちゃんはジャンジャンと音を鳴らす。4種類かな。
「これは循環コードと言われていて、C、
なんでもこれを繰り返すだけでも曲が作れてしまうらしい。便利だ。
「じゃあまずCからね。こことここと、そこを押さえるのよ。そして6弦から1つずつ音を出していく」
言われたとおり押さえ、1つずつ音を出して……あれ? 音が出ない。
「弦を押さえてる指が他の弦に干渉しているからよ。指の位置をずらしてひとつずつ丁寧に」
こ、こうかな?
ずらしては音を出し、ずらしては音を出し、繰り返して全部の音がちゃんと出てからようやく綺麗にじゃららんと鳴らすことができた。
「んんー、なんか弾いてるって感じがするぅ」
これぞギターって感じだ。
「次はAm。Cから薬指を動かすだけだから簡単よ」
うん、中指の内側に薬指を入れるような感じに押さえればいいだけだからすぐできた。そして6弦を鳴らさないのが特徴だ。
「いいんじゃない? じゃあFね」
人差し指を伸ばし、全部の弦を押さえる。そして中指、薬指、小指……ええーっ。
これきつい。音がちゃんと出ない。どうなってるの?
手が小さいのかな。だけどクラスでもわたしより背の低い子は2~3人いるから、わたしはきっと平均くらいだ。手だけ小さいってあまり聞かないし、普通だよね? うー……。
「えふができませぇん……」
「途中でコードを挫折するひとは大抵Fのせいなんて言われてるわね」
ああやっぱりそうなんだ。
「じゃあひとつ面白いことを教えてあげるわ」
調ちゃんは当たり前のようにFを押さえる。
「これがF」
じゃららんと調ちゃんが鳴らす。うん、多分Fだ。
「それで、これはどう?」
またじゃららんと鳴らす。うん? うん……。
「どう違うの?」
「Amと同じで6弦を鳴らしていないのよ」
あっ、そうなんだ! 言われないと気付かなかったかも。
「実はこれもFなのよ」
ほうほう。
「そうするとね、こういうことができるのよ」
調ちゃんは人差し指を大きくずらす。人差し指は1弦と2弦だけを押さえて、あとの指は一緒だ。
その状態で6弦を省いてじゃららんと鳴らす。さっきと同じ音だ!
「通常のFの場合、人差し指は6弦と1、2弦を押さえるわけ。じゃあ6弦を弾かなければ人差し指はもっと楽になると思わない?」
思う! 握り方もなんか自然だし。
「子供や手の小さいひとでも簡単にできるから、難易度はかなり下がるわよ。そうじゃなくても素早いコードの移動が必要なときにも便利だから覚えておくといいわ」
「うん! あっ、なんか押さえられそうな気がする!」
「連続させるとどんな感じになるかというと、こんな感じね」
調ちゃんが循環コードを弾く。あっ、Amのときの人差し指を寝かせるだけで1弦も押さえられるんだ! Fへの指移動が極端に減った。
早速やってみると……できる! これ、わたしにもできるよ!
「うちのおじいちゃんはこういうことも教えているのよ。こんなところでひっかかっていたら、いつまでたってもギターは楽しくならないからって。ちゃんとした押さえ方は後から練習すればいいのよ。そして正しいFを押さえるいい方法もあるから、今度教えるわ」
やっぱり教わるのって大事だ。ひとりでやってたら絶対この沼にはまっていた。
「なんで最初からこれをFだとしなかったんだろ?」
「6弦というか、低音が足りないと音が薄くなるからよ」
「じゃあ正しいFじゃないから、これはなんちゃってFコードとしておこう」
「それでいいんじゃない? 次、G7よ」
そしてG7はCを広げただけみたいな感じだったから簡単にできた。全部の弦から指を離すけど、Cへの移動も難しくない。
「最初はコード移動したら必ず1音ずつ出して確認しなさい。慣れてくると自然に他の弦へ干渉しないよう握れるようになるわ」
楽しくなってきた。まずはこれをマスターしよう。
「ところでコードって何種類あるの?」
「100以上あるわよ」
……げっ、マジ!?
「そ、それ全部覚えないとダメ?」
教本のコード一覧のページを開いてみる。うわぁ、大変だ。
「コードなんて勉強する必要ないわよ」
えっなんで?
「そんなことするくらいなら、いろんな曲をたくさん弾けるようになさい。それで、その曲で使っているコードの名称を意識して弾いていれば、自然に覚えるようになるわ。私だって咄嗟に出るのなんて半分程度よ」
頑張ってコード覚えるぞっていうのは、ギターをやめる最後のきっかけになるそうだ。一気に覚えようとはせず、弾きたい曲で使っているコードを都度覚えるほうが楽しく覚えられる。確かにそうだね。
だけどわたしはまず循環コードだ!
「あと、なるべく家に籠ってないでここで弾くように」
「えっ、いいの?」
「ひとりで練習しているよりモチベが下がらないでしょ。それに一応、私の生徒なんだし」
そうそう、それなんだよね! 調ちゃんといるだけでモチベ上がるよ、わたしは。
ふたりだけの青空ギター教室。なんか青春してる感じ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます