第四章 生と死の夜会

生と死の夜会 Ⅰ

長編小説 天壌霊柩 第二部 ~ 無辺葬列~



  第四章 生と死の夜会 


     Ⅰ


 蔦沼タワービルを臨むレストランの個室で、御上みかみ慎太郎と斎実ときみ管生くだしょう、そして哀川父子は、さらに論議を続けていた。

 今回の事態の経緯や背景を、判明している要素、推測だけは可能な要素、まだ不明な要素に分けて、時系列に整理してゆく。

 その途中、慎太郎のスマホに着信があった。先ほど蔦沼つたぬま市立中央総合病院に向かった、美津江刀自とじからの電話である。

 慎太郎は、その場の皆にも通話内容を聞かせるため、スピーカーモードで応じた。

「何か動きがあったんですか?」

『今、警察が病院に入って行ったわ。念のため、トビメに後を追わせてる。ただ、警察の後に、妙な人たちも高田さんのお見舞いにくるらしいの。死んだ島崎教育長の私設秘書と、島崎家ゆかりの弁護士ですって』

「確かに妙な話ですね。それに急すぎる」

『吉田さんも、そう言ってるわ。で、あなたと斎実ちゃんに、こちらに合流してほしいの。もちろん管生も一緒にね。斎実ちゃんには、その二人が本当にただの民間人なのか、高田さんに会う前に読んでもらう。もし怪しげな連中だったら、なんとか阻止しなきゃならない。あわよくば捕獲して、その二人の記憶を慎太郎君に詳しく探ってもらう――そんな算段なんだけど』

「了解しました。すぐにそちらに向かいます。二十分かからないと思います」

『その二人の面会は午後七時からだから、三十分後でも充分間に合うわ。慌てて事故らないでちょうだいね』

「了解です」

 慎太郎は、ふと疑問を覚え、美津江刀自に訊ねた。

「そんな正確な時刻まで、よく判りましたね」

 斎実は訳知り顔で、

「きっとトビメちゃんが調べたのよ」

 しかし美津江刀自は、

『外から病院にかかってくる電話を残らず立ち聞きするのは、さすがに式神でも無理ね』

「じゃあ――まさか病院の回線を盗聴してるとか?」

 慎太郎の問いを、美津江刀自がはぐらかした。

『ノーコメント。じゃの道はへび、それで察してちょうだい。こちらには、吉田さんに輪をかけて悪賢い仲間がいるの』

 美津江刀自の声に続いて、男たちの失笑する声が聞こえた。民治老人と吉田以外にも、知らない男が一人、ワゴンに同乗しているようだ。おそらく吉田以上にデジタル方向の裏技に長けたプロが、山室やまむろ夫妻に協力しているのだろう。

『でも、人の心の中までは、御子神みこがみすじじゃなきゃ読めないものね』

「はい。すぐに向かいます」

 通話を聞いていた哀川教授が、美津江刀自に訊ねた。

「私たちも同行しますか?」

『いいえ、先生と拓也君はお宅に戻って、ゆっくり体を休めてちょうだい。これからこちらで必要になるのは、御子神筋の力だけだから。事態に区切りがつきしだい、また連絡するわ』

「はい。――じゃあ、お言葉に甘えて」

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