第4話 お仕事
「それで?それがボクに頼みたい大仕事?」
ため息混じりな先生の言葉に、情報屋のお姉さんは大きくうなずいた。
「もうアンタほどの魔法使いじゃないとダメなんだよ、頼むよ。お願い。そんな顔しないで。もう何人もの魔法使いがこの魔物に殺されてるんだって」
「えぇー、そんなんボクかって魔物に殺されるのは嫌なんやけど」
「何言ってんのさ、この国で三本指に入る魔法使いのアンタが殺されるわけないでしょ!ねぇ?」
僕に掩護射撃を求めるお姉さん。丸い眼鏡の奥の瞳に耐えられず、目をそらして小声でつぶやく。
「……まぁ、先生には勝てない魔物なんていないと思いますけど」
「ほらぁ、お弟子くんもこう言ってるじゃん!お願いだよー。怖い魔物がうろついてるなら、夜もおちおち寝てらんないよぉ」
真っ赤なマニキュアをした彼女の手が先生の方にスゥーッと伸びて、彼の白い手を撫でるように包み込む。そして、
「今度こっちでもサービスしてあげるからさぁ。ねーえぇ」
と、潤んだ瞳で先生をじぃっと見つめた。彼女は口紅も、長く伸びた髪も赤色で、「赤が好きな人なんだなぁ」なんて、僕はぼんやり横で見ていた。
「あーあー、もう弟子の前でそういう……あー、もうわかった!わかった!受けたるわ」
手を払いのけ、顔をしかめて両手をあげる先生。
「でも、報酬は提示してきた額の5倍やからな」
「えぇー」
「これは絶対まけへんからな!ここは譲らんで!
別にボクはその魔物を殺さへんくても困ってへんのやし!命かけて殺すんやから、お金くらいはもらっとかなな」
腕を組んで顔をそらすと、子どもみたいにぎゅっと目をつぶって口を尖らす。
「んんー、まぁいっか。実際にお金払うのはアタシじゃないし」
足取り軽く去って行く彼女を横目に、先生は深いため息をついた。普段から仕事前はやる気のない人だけれど、ここまで渋るのは珍しい。ただ、
「なぁ、ちゃんと一緒についてきてな」
机にベタッと突っ伏して、つぶれた膨れ面でそう言ったときにはつい噴き出してしまった。あの白く柔らかな頬が潰れて、お餅みたいになっていて……。
あぁ、やっぱり僕は先生のことが好きなのだとあらためて思った。
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