第2話 共白髪

「共白髪」


 という言葉を知った時、絶望を感じたものだ。

 私がどれほど欲しても決して手に入らぬものだから。


 ソファに深く座り、首元にUSBケーブルを差しこむと目を瞑る。


 ぽん、という軽快な音が私から鳴る。

 充電開始の合図。


 電気が体内に入ってくることがわかる。体中を巡る配電線が熱を帯びるのだ。

 これが私の睡眠。


 勿論、本当に眠っているわけではない。充電している間、OSは無駄な電力消費をやめて、スリープモードに入るというだけだ。



 だが、何かあればすぐに行動できるように視覚、聴覚は有効にしている。

 目の前で寝苦しそうにしている彼を眺める。


 二度、彼は発作に襲われた。


 三度目はないと医師から言われたのだが、反対を押し切って退院した。

 最後くらい自宅にいたいというのが二人で出した結論だ。


 壊れることもあるし、劣化もするが老化をすることのないのが、私だ。

 いつまでも少女のままで、外見も精神も変わっていない。だが、彼は着実に老いていき、衰えていく。


 なるほど、人間の男にとってこれほど都合の良い女はいないだろう。


 出会ったときのもっとも美しい姿のまま、一生添い遂げてくれるのだから。

 だが、私はこれほど、自分が人形であることを呪ったことはない。


 私は、老いたいのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

充電人形。を拾った西暦2090年(短編) ゆうらいと @youlight

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ