第5話




  『なまくら刀殺人事件』


 八時三十三分。木下が、織田の部屋の前に到着する。

「オーナー! 皆さんもう食べ終わりましたよ」

 木下は、部屋のドアをノックする。

 だが、何度ノックしても織田は出てこない。

「しょうがないなあ、あそこから中を……」

 そう言って、ドアの上の小さな窓を見上げ、

「んっ、窓に血?」と、気付く。

 ドアの上の小さな窓に、部屋の内側から少しだけ血が付着している。

「オーナー?」

 そう小さな窓から部屋の中を覗くと、織田が部屋の中で、腹から血を流して倒れているのが見える。

「うわー!」

 木下は叫び声を上げる。

木下の叫び声がリビングまで聞こえる。

「何だ、今の叫び声は……」

 リビングにいる花森が、驚く。

「オーナーに何かあったんじゃ……」

 福住が、心配そうに言う。

「警部、とりあえず言ってみようぜ」

「ああ」

 翼の呼び掛けに、坂田が答える。

 リビングにいる全員が、一階にある織田の部屋まで走って行く。


      6


 八時四十分。皆が、織田の部屋の前に駆けつけると、木下が、座り込んで青ざめた顔をしている。

「どうしましたか? 木下さん」

 坂田が聞く。

「なっ、中でオーナーが……」

 木下はそう言って、ドアの上の小さな窓を指差す。

 翼と坂田が、ドアの上の窓から、部屋の中を覗く。

「こっ、これは!」

 部屋の中で倒れている織田を見て、坂田が叫ぶ。

 織田の横には、リビングに飾ってあったなまくら刀と、部屋のカギが落ちている。

 覗いた後、翼は、ドアノブを触り、

「ドアにはカギがかかっている」

 ノブは回らない。

「警部、一緒にぶち破るぜ」

「ああ」

 翼の促しに、坂田が肯く。

「せーの」

 二人は、そう息を合わせて、ドアに体当たりする。

 四度目の体当たりで、ドアがぶち破られる。

 ぶち破った後、翼と坂田は、織田の横まで歩いて行く。

「もう息はない」

 翼が、織田の口元に手をやる。

「そんな……」

「刀でやられたのか……」

 亀井に続いて、花森が呟く。

「一体どうやって、犯人は部屋から抜け出せたんだ」

 福住が、不思議そうに言う。

「死後硬直の具合からして、死亡したのは昨日の二十三時頃」

 翼は、そう死亡した織田に触り、

「傷口から見て、凶器はそこにあるなまくら刀」

と、横に落ちているなまくら刀を見る。

刀を見た後、部屋の外に通じる、大きな窓のところまで歩いて行く。

「別荘の外に通じる部屋の窓は、カギがかかっている」

 部屋の窓を、右手で触る。

(ドアにもカギがかかっていて、ドアの下に隙間はない)

 翼は、ぶち破ったドアを見ながら、状況を整理する。

 整理した後、再び織田の元へ行き、

「死んだオーナーの横に落ちている、このカギは……」

 そうカギを拾って、ぶち破ったドアの所まで歩く。

 歩いて行くと、鍵穴にカギを入れる。

カギ穴はしっかり回る。

「この部屋のカギで間違いない」

 翼は、カギを見つめながらそう言い、皆に向かって、

「この部屋は、ドアにも窓にも、内側からカギがかかっていた。

更に、オーナーの横に落ちていたカギは、この部屋のカギに間違いない。そして、この別荘にマスターキーはない。

つまりこれは、密室殺人という事になる」

 と、意味深な顔で話す。

「密室殺人?」

 皆が、驚いた様子で翼を見る。

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