第4話

  『なまくら刀殺人事件』


 二十一時、リビング。レイナと坂田が見守る中、亀井が、翼の歯の治療をしている。

亀井は、治療に、ワックススパチュラとインスルンメントを使っている。

「いたたたた!」と、翼は声を上げる。

「翼ちゃん、頑張って我慢するの!」

 レイナが強く促す。

「お姉さん、顔の割に治療がハードすぎ。フガー!」

 翼は、口を開けながら叫ぶ。

 坂田は、黙って後ろから治療を見ている。

「ハハ、そりゃ痛いわよ。私の治療はハードだけど、完治も一瞬。虫歯はそう大きくないから、もうすぐ終わるわ」

「翼ちゃん、もうすぐだって」

 レイナが、励ます。

 治療している途中、亀井が、インスルンメントを床に落とす。

「あっ、落としちゃった。これ拾うの面倒なのよ」

 と、亀井が困った顔をしていると、そこに福住が現れ、

「よいしょ」

そう言いながら、U字磁石で、床に落ちたインスルンメントを拾う。そして、

「はい」

 福住は、磁石にくっついている、拾ったインスルンメントを、亀井に渡す。

「ありがと」

 亀井は受け取って、礼を言う。

「本宮君の歯の治療、大変そうだね」と福住。

「いや、もうすぐ終わるわ。あなたここでも、そんな物持ち歩いているのね」

亀井は、福住の持っているU字磁石に目をやる。

「ああ、冒険家として、普段の生活でも、これがあると何かと便利なんだ」

 福住が、笑顔で返す。


 二十一時二十分。リビングで翼の治療が終わる。

「あー、治った治った。これでまたいつも通り、うまいもんを食うことができるぜ」

 翼は、頬を抑える。

 すると、部屋の隅から花森が来て、

「フッ、君、日々きちっと歯を労わってないからそんな事になるんだぜ」

 ガムを食べながら、翼に話しかける。

「花森さん……」

 翼は、花森に視線がいく。

「俺なんか、いつもこのキシリトールのガムを噛んでるおかげで、虫歯とは無縁の存在さ。ほら、これ一つやるよ」

 花森はそう言って、翼に、持っているキシリトールのガムを渡す。

「ありがとうございます」

 翼は、ガムを受け取る。


 二十三時。犯人は、織田の部屋の前に来て、部屋のドアをノックする。

「ん? お前か……。

どうした? こんな時間に……」

 織田が、ドアを開けて出迎える。

「あんたを殺しに来たんだよ」

 犯人が言う。

「ハハ、何冗談を言ってるんだお前」

 織田が笑いながら返す。

「いや、本気だよ」

 犯人はそう言って、リビングに飾ってあった、なまくら刀を出す。

「なっ!」

織田はそう叫んだ瞬間、刀で腹を刺される。


      5


 翌朝、翼の部屋の内線電話が鳴る。

「はい」

翼は、内線電話を取る。

『本宮様、執事の木下です。朝食の準備ができましたので、リビングへお越しください』

「分かりました」

 そう木下に返し、部屋を後にする。


 朝八時、リビング。織田以外の全員が集まっていて、料理が机の上に出されている。

「あれっ、オーナーのやつ、まだ来てねえのか」

 花森が、皆を見渡す。

「まだ寝てんじゃない?」と福住。

「さっき、部屋に内線を入れたのですが、出られなかったので、まだ寝ておられるのかと思います」

 木下が説明する。

「もう、俺達だけで先に食べちゃいましょうよ」

 翼が、料理を見ながら、輝いた顔をする。

「翼ちゃん、いい加減にしときなさいよ」

 レイナが叱る。


 朝八時半、リビング。皆、食べ終わって、机の上に空のお皿が並んでいる。

「もうみんな食べ終わっちゃったわね」

 亀井が、空のお皿を見渡す。

「いくら何でもちょっと遅いなあ」

 福住が、不安そうに呟く。

「私、ちょっと見てきます」

 木下はそう言い、織田の部屋に走っていく。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る