第5話

「ボス魔物は、壁と同化してて、動かないの。だけど、ダメージを受けると反撃して来るわ。それと、定期的に飛び道具を放って来る。毒が付与されていて……」


 この迷宮ダンジョンでは、滅多に現れない、高難易度のボス部屋だな。

 ここで、護衛全員が来てくれた。

 良かった。無駄に攻撃はしなかったんだ。

 まあ、目的が王族の救助なんだし、それもそうか。


 残る問題は、この部屋からどうやって出るかだ。

 衛兵に任せる手もあるけど、高レベルの三人でこの様だ。それほど、毒による攻撃は、脅威と見るべきだな。

 動ける衛兵は、五人だけど……。突撃させても、この三人と結果は変わらないな。

 動けなくなる人が、増えるだけだ。

 そうなると……。任せるのはリスクが高い。

 仕方がない。


「さて……、全員ここにいてくださいね。俺はボス魔物を倒して来ます」


 俺の秘密を晒すことになるけど、後から取り繕えるだろう。


「「「えっ?」」」



 ボスは、反対側の壁にいた。

 壁に顔がついている感じかな? 動けないのが幸いした。

 毒によるスリップダメージがメインだと判断する。


 こういう敵には、近接戦闘は厳禁だ。

 だけど……。


「まあ、今日のパーティーは八人だし、大丈夫だろう」


 俺は短剣を抜いた。


「スキル……、開放リリース



 切る、とにかく切る。

 そうすると、反撃が来るけど、全て躱す。

 魔法も撃ってみるけど、効果が薄いな。矢か鉄砲が有効みたいだ。

 ここで、何かが飛んで来た。

 短剣で弾く。


「……これが、毒矢になるのかな? まあ、今の俺なら見えるか」


 ボス魔物の攻撃が激しくなる。だけど……、俺には当たらない。

 全て見えている。


「悪いね。八人分のバフ効果を得ている俺だと、レベルが高すぎるみたいだ」


 俺は、パーティーを組んだメンバーにより、ステータスが変化する。魔法は、以前に組んだ人が使った全ての魔法を覚えている。スキルは覚えられないけど。

 人によっては、『勇者』の加護と言う人もいる。

 だけど、そんな大層なモノではないと思っている。


 身近に勇者といえる人物がいたのだ。自分の限界は理解している。

 魔王退治は、あいつに任せて、俺は日銭を貸せぎ……自分の欠点を補うアイテムを買う。そう決めた。


「だけど、今日ぐらいは活躍してもいいよな」


 俺は短剣を突き刺して、ボス魔物を倒した。





 今は、扉が開いたので外で治療を行っている。


「姫さま! いい加減にしてください!」


 リナリーさんが、怒られている。

 俺は……、聞かざるだな。関わり合いたくない。

 しばらくすると、静かになった。


「話し合いは終わりましたか? とりあえず移動しましょう」



 もうすぐ、迷宮ダンジョンの出口だ。

 迷宮ダンジョンから、生きて帰って来れた。

 こんなことは、たまにあるけど、普通であれば迷った時点でまず助からない。


「ねえ、ウォーカー君。お願いがあるんだけど」


 リナリーさんからだった。正直、聞きたくないな。


「……ごめんなさい」


「まだ、何も言ってないよ?」


 俺は全員に魔法を使った。


「コンフュージョン」


「え……」


「俺に関する記憶の混濁。名を売りたくなくて、静かに暮らさせてください」

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