第2話 わんこと結ばれ

「じゃあふーとくん、るると付き合ってください!」



俺の頭の中で一瞬、宇宙が開く。



つきあう? え? だれとだれが?



「るるとふーとくんに決まってるでしょっ! るる、ずっとふーとくんのことが好きだったから!」


「はっ……は、はああぁぁぁ!?!?!」



照れたように視線を逸らするる。が、俺の脳内は大パニックである。



る、るるが?! ただの幼馴染で、それ以上はなかったこいつが……俺のことを!?!


言葉を失う俺に、るるは照れたようにしてスカートの裾をいじる。



「き、気づいてると思ってた……本当はもっと早く告白するべきだったんだけど……」

「そ、それはいつから……」

「いつって、出会ったその時からだよ?」

「えええぇぇぇえ!?!」


俺がねおを想っていたその時、るるは俺のことを……好きだった??



「それで、どうかなふーとくん。このかわいいるるちゃんを傷つけたくないなら、付き合ってくれるかな……?」

「か、かわいいって……」


今まで全くそんな目で見たことがなかったるるを、俺はただ見つめる。


確かに言われれば、かわいい。

ねおとは全くタイプが違うけど、愛らしさとかわいさは百点満点だ。


それに、胸もFカップは余裕であるなこれ。

制服のスクールシャツの前ボタンがはじけ飛びそうだ。


それに、髪型だってかわいい。

イヌをどうしても連想してしまうハーフツインは、ついつい手を伸ばしてなでなでしたくなる。



十年間、これまで、ずっとねおを見ていたが……こうやって改めて見ると、るるはとてつもなくかわいかった。


「どうかなっ、かわいい⋯⋯かな?」


「……未練がましくてすまないが、俺は、やっぱりねおのことが好きだったから……そう簡単には……」



と、迷う俺に、るるはぎゅっと体を寄せてきた。

柔らかさとぬくもりが俺に密着し、不覚にもドキドキしてしまう。



「で、でも! るるとねお姉、ほとんど一緒だよ? ほ、ほら、このハーフツインをくるってまとめたら……」


慌てたようにして、るるは手でハーフツインをくるっとまるめてみせる。


ネコの耳のような雰囲気に、どうしてもねおが浮かんでしまう。

つまり、ほぼそっくり。ドッペルゲンガーと言われても納得がいく。



「それに! もっとつーんって顔をしたら、ねお姉とそっくり! おっぱいだって、おんなじ大きさ! というか、るるの方が大きい! るるはGかっぷあって、ねお姉はFかっぷだし!」



るるは必死にツンとした表情をつくり、さらに胸を張って、俺を必死なまなざしで見つめてくる。


というか、るるの方が大きい……だと……?



「成績はねお姉より悪いし! それに、ねお姉よりオシャレでもないし、バカだけど……っ、ふーとくんのこと好きな気持ちは、ぜーったいに負けないよっ!」



そう言うるるの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。


足だって小さく震えているし、数分前こっぴどくフラれた身としては、痛いほどるるの気持ちが分かった。



「……俺が、心のどこかでるるをねおと重ねてしまっても、いいのか?」

「うんっ、付き合ってくれるんだったら、なんでもいいの! だって付き合ったら、るるがふーとくんにとっての一番になるから!」


「……本当か?」

「ほんとう、ほんとうなの! だから、お願い……るるに、チャンスをくださいっ」



かわいい幼馴染に、涙声で頭を下げられたら⋯⋯俺に断る権利はないも同然だ。


俺は半分自棄で、るるの肩を優しく掴んだ。



「わ、わかった……付き合おう、付き合うから、顔を上げてくれ」

「ほっ……ほんと?」



その言葉を聞いた途端、るるはぱっと顔を上げ、涙の残る目を大きく開く。



「いいの? 本当に? いいの!? わっ、やったあーっ、やったあー!!」

「ちょっ、るる! 落ち着け! おい!?」



るるは舞い上がったかと思うと、教室中を駆け回り、その拍子に教室の机などを盛大に倒してしまう。


「け、怪我はないか?」

「ふーとくん優しいねっ、だいじょうぶ、えへへ⋯⋯」



教室の戸が開かれたのは、その時だった。




「……ちょっと、何事……って、げ」


「あ……ねお姉」



机が倒れた音を怪訝に思ったのか、まだ学校に残っていたらしい俺の想い人、ねおが、教室に顔を出した。


綺麗な顔。


俺はしばらく何も言えず、るるに悪いと思いつつも固まってしまう。



「⋯⋯⋯⋯」


「っ、る、るる、帰るわよ」



気まずくなったのか、先にねおが動き出し、るるの手を掴んだ。


るるはその手を優しく振りほどき、ねおに向き直る。



「ごめんねねお姉。るる、ふーとくんと帰る」

「はぁっ?」


るるの言葉に、ねおはぎゅっと眉をしかめた。



そんな中、るるは飛び跳ねるようにして俺に近づいてくる。


そして、イヌのように人懐っこい瞳を俺に向け、俺の手をぐいぐいと引っ張った。



「お、おい⋯⋯」



るるはぱあっと太陽のような笑みを浮かべたかと思うと、



「るる、今日からふーとくんと付き合うことになったから!」



ねおの酷く青ざめた顔が見える。


ねおになにか言おうとしたが、るるはそれより先に、俺の手を引いて教室から引きずり出してしまった。












「そっ⋯⋯そんなっ⋯⋯る、るるの馬鹿あぁっ!! 風斗のことは、私の方が、もっと好きだったのにぃぃぃいっ⋯⋯っ!!!!」




その後、誰もいない教室で、ねおの悲鳴が響き渡ったのだが。


もちろん風斗には聞こえていないのだった。

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