好きだったネコ系幼なじみにフラれたので、その双子のイヌ系妹と付き合い始めた。そしたらなぜか、めっちゃ妬いてくるんだが?
未(ひつじ)ぺあ
わんことにゃんこに振り回される
第1話 フラれてコクられ
「ずっと好きでした!! おお、おおお、俺と、付き合ってくださいっ!!」
春風が吹く、暖かい日の放課後だった。
俺、
なぜならば、ずっと昔から大好きだった幼馴染に、ただ今、告白をするからだ。
目の前に立つ美少女は、俺の大好きな幼馴染、ねお。
ツンとした顔つきだが、思わず息を呑んでしまいそうな端正な顔立ち。
瞳は空色に澄んでいて、上に広がる空をそのまま映したような美しさだ。
髪はミディアムロングで、ウェーブのかかった髪は金色にきらめき、美しさと可憐さを増している。
さらに、その柔らかそうな髪はハーフツインお団子にまとめられてあり、ふわふわとしたネコを思わせる。
つまり、ねおはめちゃくちゃに美しいのだ。
「なんで今更なんだって、分かってる。だけど、もしよかったら、考えてほしいなって……」
俺とねおは、五歳の頃からの仲。今はあまりないが、昔はよく三人で遊んだものだ。
学校では高嶺の花であり、成績優秀、さらに誰もが息を呑むような美貌を持ち合わせているため、クラスのみんなはどこかねおを敬遠している部分がある。
が、俺は、そんなところも含め、ねおが大好きなのだ。
もっと共に過ごしたい、その欲が高まっていき、今日、告白することにしたのだ。
ばくばくと大きな音を立てる心臓の音を聞きながらも、俺は、ねおの顔を見る。
「…………」
ねおの真っ白な肌は、心なしか少し赤らんでいるように見える。
ねおの細い指は、その金髪を撫で、ついに逸らしていた瞳を俺に向けた。
ねおと視線が交わる。
「返事なんだけど……」
綺麗な声でねおはそう呟くように言う。
俺は返事に期待し――。
「嫌」
「ふぁうっ」
ド直球なノーに、俺はただぽかんとして固まった。
しばらく悲しみも感じず、俺はただその場に佇む。
「⋯⋯な、なんで」
「私、彼氏ができたの」
やっとのことで聞くと、ねおは相変わらず無表情でそう言う。
というか、そんなこと初耳だ。
第一、ねむのことは毎日始終見ていたが、そんな様子は一切見られなかった⋯⋯のに。
「わ、別れるまで、私のことをもっと好きになって待ってなさいっ」
「あ……」
ねおはそう、ほんのり赤く頬を染めながらも言い、急ぎ足でその場を去ってしまう。
俺はその場に一人残され、しばらく一歩も動けずにいた。
「……」
……これは、約十年の恋が、散った……のか?
嘘だろ? こんなに大好きで、愛してやまなかったねおに……彼氏が?
一度も触れたことがないあの柔らかそうな髪も、Fカップあると確信した胸も、あのすべすべした肌も……全て、彼氏のものなのか!?
彼氏だけに見せる、ツンじゃなくデレで甘い姿⋯⋯想像しただけで、胸が締め付けられる。
まだ愕然としてる俺に、すでに八メートルほど離れたねおがぱっと振り返った。
「どうせなら、もっといい男になってリベンジしたらどう? 女心、分からなすぎ! ま、待ってるんだからね!」
ねおは何かを叫ぶが、全く頭に入ってこない。
呆然と佇む俺に、今度こそねおは急いで顔をそらし、あっという間に姿を消してしまった。
「……う、うぐ……っ」
頬が濡れ、嗚咽が込み上げてくる。
泣きたくないのに、涙がこぼれ落ちてくる。
何しろ、世界一大好きな相手に、俺はフラれたのだから。
あのツンツンした、まるでネコのようなところが好きだった。
きっと俺を睨んでくる瞳も、綺麗に整えられた前髪も、ネイルも、全てが大好きだったのに……っ!!
俺は無気力のまま、重い足取りで教室へと戻る。
家には戻りたくなかった。
「あれ、ふーとくん」
がらら、と力なく教室の戸を開く。
と、そこには、とりわけ派手な女子グループが残っていたようだった。
放課後はもうすぐ終わるため、誰も残っていないと思っていたが、どうやらずっと教室でたむろしていたらしい。
「ふーとくん、どうしたの? 落ち込んでる」
俺が席につき、辛さに耐えられず顔を伏せていると、つんつん、と頭をつつかれる。
「ふーうーとーくんっ。聞こえてますかー」
「聞こえてない」
「わっよかったあ」
人生で、ねおの次によく視界に入り込んでくる存在。
声でわかる。こいつは――
「……るるか」
「せいかーい」
重い頭を持ち上げると、そこには嬉しそうに笑みを浮かべる、物凄い美少女の姿があった。
「ねえ、今日どこか行くーっ? るる、駅前のパフェ食べたいっ!」
「行かない」
「けちっ」
このバカでお気楽なこいつこそ、ねおの双子の妹、るるだ。
顔つきは、ねおに負けをとらないほど整っているが、ねおのように美しいというよりかは、かわいいに属する。
しかし、目元や鼻筋、眉毛、胸のサイズなどは、ねおと瓜二つ。この俺でもたまに間違えるくらいだ。
それに、ぴょんと高い位置でくくった、イヌの耳のようにはねるハーフツイン。
性格もイヌそっくりで、とにかく甘えたがりで、じゃれついてくる。
とにかくねおの、ネコのような性格とは真逆の天真爛漫さだ。
至近距離で見つめてくるるるを怪訝げに見ていると、女子グループの女子がどこか冷やかすようにしてにやにやと見てくる。
「ちょっとるるー、いきなり会話から抜けないでよー」
「もー、風斗くんのこと好きすぎ!」
「今告っちゃえ!!」
「ちょ、ちょっとお、やめてよお!」
その冷やかしに、即座に真っ赤になるるる。
るるは、孤高の美女であるねおとははたまた違い、カースト上位の女子グループに所属しているのだ。
頭はそこまでよくないし、でも運動神経と順応さはいい。そこも含め、とにかくねおとは全く正反対だ。
そんな中、るるは俺に何かを言いかけ、慌てたようにして女子グループの方を振り返った。
「み、みんなは先帰っていいよー、ばいばーい」
「もー……結果、後で教えてよね!」
「ふぁいとーっ」
「あー私も青春したーい」
派手な女子たちは意味ありげにほほ笑んだかと思うと、足早に教室を出て行ってしまった。
「⋯⋯はぁ⋯⋯」
ああ頭痛がする。ねおのことを考えただけで、胸が痛い……。
「ふーとくん。なに悩んでるの?」
二人きりの教室。
俺の瞳を覗き込むようにして、るるが俺に顔を寄せてきた。
「……っ」
るるの顔がねおと重なり、先程の苦しい衝撃が鮮烈に蘇る。
途端、こらえきれない感情が溢れ出し、俺の目から涙があふれた。
「わっ、ふーとくん、涙っ」
「俺……っ、ねおにフラれたんだ」
思わず口からこぼれた暴露に、るるの瞳がまんまるになる。
「えっ……ふーとくん、ねお姉のこと好きだったの!?」
「……ああ、そうだ、好きだった。十年以上も想い続けてたのに……ううぅっ……」
「…………いいこいいこ」
るるはしばらく固まった後、優しく背中を撫でてくれる。
……ああ、まだ小学生の時、俺がねおに泣かされたときは、こうやってるるが優しく慰めてくれてたっけ……。
俺は些細なぬくもりを感じながらも、心にあふれる感情のままに嗚咽を上げた。
♢
「ふーとくん、落ち着いた?」
「あ、あぁ……るる、ありがとう」
数分後、俺はようやく落ち着き、大きく息を吐きだした。
「ごめん。ちょっと感情が抑えられなかった」
「大丈夫だよっ。……それに」
……ん?
言葉が途切れ、怪訝に思って顔を上げる。
「⋯⋯へ?」
るるは、なぜか瞳を輝かせていた。
尻尾があったなら、ぶんぶんと振っているに違いないほどの、満面の笑み。
あれこいつ、ついさっきまで失恋した男を慰めてなかったか? なんでこんな笑顔なの?
きょとんとする俺に、るるは笑顔を浮かべたまま口を開き、
「よかったあ!」
「は?」
口から出た言葉に、俺は眉間にぎゅっと皺を寄せた。
聞き間違い……ではないようだ。
「……なにがよかったんだ」
怪訝げに尋ねる俺に、るるはきらきらと表情を輝かせ、俺にぐいっと顔を近づける。
「だって、ねお姉のこと、もうあきらめたんでしょ?」
「あ、諦め……っ、い、いやいや」
諦めてなんか……と言おうとし、先程のねおの言葉が反芻する。
――『嫌』
――『女心、分からなすぎ!』
ねおの冷ややかな表情。
――『私、彼氏ができたの』
そうだ……ねおには、彼氏ができたのだ。
そう簡単には別れないだろうし、それに。
「……俺じゃ、ダメだったんだ。ねおを幸せにしてくれる彼氏なら、いいのかもな……」
きっと俺は、ねおにふさわしくなかったんだ。
もっと頼れて、優しくて、頭もいい、ねおに釣り合う彼氏の方が、ねおは幸せだろう。
「……そ、うだな。諦めた」
俺は迷う心を無理やり固め、そう口に出す。
と、るるは最上級に嬉しそうな顔になり、ハーフツインをぱっと宙に散らせながらも、がたんと俺の机に手をついた。
「じゃあふーとくん、るると付き合ってください!」
………………。
……は??
固まる俺をよそに、るるはちょこんと小首を傾げ、かわいらしく微笑んでみせたのだった。
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