オタクの嗜みとしてラテン語
「あら^〜、雪降ってるじゃなーい!寒いと思ったわ〜」
みなさん、おはようございます。長谷川理玖です。一夜明けて、旅館の外は一面の銀世界でした。雪兎くんはさも嬉しそうに、庭駆け回っています。見た目、こたつで丸くなってそうな印象なのにね。作品が入賞してテンションが上がっている事もあるけど、本当に本当に雪が好きなんだなぁ。
楽しそうにはしゃぐ雪兎くんを見ていたら、何だか足元にきらきら光るうさぎさんが跳ね回っているような気がした。でも多分、それは気のせい。目の錯覚だ…。二回か三回、もしくは十回くらいまばたきをしたら消えてしまう類の。
「そういや、すごい今更なんだけど…。トミ婆ちゃんの名前の漢字って、兎に美しいでトミって書くんだな」
雪玉を握って、雪兎くんにぶつけながら声をかけた。負けじと、雪兎くんも投げ返してくる。
「そうだけど、本当に今更だね。なぁに突然、藪から棒に?俺の名前はトミ婆ちゃんから字をもらったって、母さんが言ってた」
「そう、なんだ…。いや、うちの妹の名前に似てるなと思って。妹は、ミウってんだ。美しい卯って書いて、美卯だよ」
「へぇ〜。一度、妹さんに会ってみたいなぁ。きっと、りっくんに似て可愛らしいんだろうね。りっくん、今はこんなんだけど…。昔は、こ〜んな小さくて色白だったもん」
「何だよ突然、年上ぶりやがってさ…。確かに色白だけど、どっちかってと雪兎くんに似てるかな?そっくりだよ、腐ってる所とか」
「それは、似てるって言うもんなの…?まぁいいや。どっちみち、話も合いそうだね。両家顔合わせの前に、一度は会ってみたいなぁ。楽しみ…」
そう言いながら雪玉を投げるのを止めて、積もった雪の上に寝転がった。どうも、「大の字」をつけているつもりらしい。
「気持ちいいよ。りっくんも、やってみてごらん…」
何でちょっと、エロく言うんだろう。ってか、ただでさえ風邪引きやすいのに大丈夫なんだろうか?まぁいいや。これでもし風邪を引いたら、オレが(エッチな)看病をすれば済む話…。そう思って、オレも雪兎くんの隣に寝転がってみた。雪合戦で火照った身体に、雪の冷たさが心地良い。
横を向けば、雪兎くんがにっこり微笑んでこちらを見ていた。ふと顔を動かせば、キス出来そうな近い距離…。だけど、何でだろう。オレには、雪兎くんがこのままどこか遠くへ行ってしまいそうな気がする。少しでも目を離せば、遠い遠い世界に…。流行りの、異世界転生?まさかね。
転生するって事は…前提として、死ななきゃならないって事じゃん。この若さで、この世に別れを告げて。そんなの、天国のトミ婆ちゃんが絶対に許さないよ。いや、その前に…。他ならぬこのオレが、絶対に何があっても許さない。例えどんな世界に行こうとも、首に縄つけてオレが連れ戻してやる…。
「そうだよ。異世界なんて、クソくらえだ…」
「?りっくん?何か言った?」
「何でもないよ。雪兎くんには、これからも地に足つけた小説書いててほしいなって話。それよりさ。こうして二人で遊んでいられるのも、あと一年だね。オレが中学卒業したら、ロサンゼルスに留学するから…。あぁ、だけど最低限の学力は必要なんだよな。それと、英語力。雪兎くん、また勉強教えてもらっていいですか?」
「いいよ、任せて。英語以外にも、ドイツ語フランス語中国語話せるから何でも。それと、オタクの嗜みとしてラテン語ね」
「おおぅ。相変わらず彼氏のスペックが高いと、助かるなぁ…。ドイツ語なんて、バウムクーヘンしか知らねぇぞ」
「あはは。留学先に、押しかけて行くから。アメリカ女と浮気してたら、承知しない…。それはそれとして、あと一年は遊び尽くそうねぇ」
そう言って、オレに対して微笑みかけてきた。オレはその笑顔を見て、すっかり安堵した気分になって…。雪の上に寝転がったまま、二人で唇を重ね合った。そして、いつまでもいつまでもキスをし続けていた。大丈夫、この雪兎くんなら…。きっと、どこかに消えてしまうなんてあり得ない。この雪原に真っ白な兎が跳ね回っているのも、きっとオレの気のせいなんだ…。
「あぁ。アメリカ『男』となら、浮気してもいいんですか?」
「駄目です」
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