茶漬けでも食って、出直してきたまえ

 みなさんこんにちは、長谷川理玖です。前回は、雪兎くんにプロポーズした辺りまでお伝えしましたね。


 言われた本人にとっては寝耳に水だったでしょうが、昨日や今日突然に思いついた事ではありませんよ。スポーツ留学の話と同じで、ずっと以前から考えていました。オレたちは若いから、それを伝えるのはもっともっと後でもいいと思っていたけど…。

 年末年始に、雪兎くんのお婆ちゃんのトミさんが急逝しましたよね。確かにずっと前から、長くないとは言われていたようですが。だけどオレ、もっとずっと長生きされるんだと思っていた。いつ伺っても、ベッドの上から優しく微笑んでくれると思っていた。でも当たり前だけど、永遠に同じなんてあり得ないんだなって…。だから思いついた事は、すぐにでも実行しようと実感した次第です。

 ちなみに「結婚」の定義ですが、日本だとせいぜいパートナーシップ宣誓制度ですよね。宣誓…つまり、法的には何の効力も生じない。だけどオレの留学先、ロサンゼルスでは同性同士の結婚を許している。なので将来的に、移住する事まで考えていますよ。だけどその辺りは、またおいおいと。それよりも、雪兎くんからは若干はにかんだような表情で「YES」の返事をもらえました(可愛かった)。あとは、親族にお許しを願うのみ…。

 今回も、だいぶ前置きが長くなりましたね。ここからが、本題です。本日は雪兎くんとの婚約を了承してもらうため、再び伊勢嶋邸に親族一同集まってもらいました。流石に葬儀の後しばらくはお忙しいでしょうから、少し間は開けましたけどね。さりとて、四十九日の喪が明けるまでは待っていられない。時期としては、一月の末頃と思ってもらえれば結構です。

 ちなみにオレの両親からは、すでに承諾の返事を得ていますよ。母親の方は再びロサンゼルスに戻っていたので、LIMEにて連絡しました。そしたら『いいかな?』『いいよー^^』くらいの、2秒ほどで用が済みました。

 さて、ここからはいよいよ雪兎くんの番。ししおどしの音の響き渡る和室で、ご両親はじめた一同と対面しました。ところで、今から登場人物の数が半端ないんですよね。何せ、親族一同(ついでに、たまたま遊びに来ていた叔父さん)ですから。そのため、対談形式+オレの独白の複合形式でお送りしたいと思います。文章が読みづらかったら、どうもごめんなさい。まずは早速、オレの発言から行きますよ。


 長谷川理玖(以下・理)「お…お義父さん。雪兎くん…息子さんを、オレに下さい!」

 おぉっと。これは、一言目からだいぶ滑った気がするぞー!?心なし、親族一同もドン引きしてますよね?かなり以前から、雪兎くんと綿密な打ち合わせをしていたと言うのに…。長谷川選手、これは大暴投か?い、いや。野球のプレイはともかく、人間同士のコミュニケーションはド直球こそ全てと信じたい。変化球なんて投げてたら、伝わるのに何日かかるか分からないですからね…。さて、それに対するお義父様の返答や如何に!?

 伊勢嶋俊樹(以下・俊)「何だと!?君のようなどこの馬の骨とも知らぬ男に、気安く『お義父さん』などと呼ばれる筋合いはないぞ!君などに、うちの大事な雪兎を任せる訳にはいかないな。どうぞ茶漬けでも食って、出直してきたまえ!」

 そうですよねー!普通、そうなりますよね!しばらく周りがホモだらけだったので気がつかなかったけど、本来あなたのような反応が当然であると思われます。それじゃせっかく茶漬けをご馳走頂けるようなので、美味しく食べて帰りますね…。そう言おうと思っていたら。

 俊「なーんちゃってね!冗談、冗談だよ!一度、こんなセリフを言ってみたかったんだ。二人がそうも愛し合っているなら、私は一向に構わんよ。と言う訳で、読者のみなさん初めまして。雪兎の父、伊勢嶋俊樹でございます。なにぶん、名前自体がつい先程決まったばかりです。作者ですらキャラを掴めていないので、口調が安定しないやも知れぬ。まずは、その点をご容赦願いたい」

 おおっと。いかつい顔に似合わず、割と話の通じやすそうな人だったぞ。雪兎くんのお父さんである俊樹さんは、伊勢嶋医院の現院長。病院経営に辣腕を奮う傍ら、株式や不動産の投資にも余念がないそうで。雪兎くん曰く、「いつ寝てるのか分からない」人だそうです。ちなみにその雪兎くん自身は、オレに掘られた翌日18時間くらい寝てるんですけどね。まぁ、それはどうでもいい。

 理「で…では、お義父さんからは了承頂けた訳ですね。それじゃ、お義母さん…沙都子さんは?」

 伊勢嶋沙都子(以下・沙)「何ですって!?あなたのような人に、気安くお義母さんなどと呼ばれる覚えはなくてよ?出直してらっしゃい!…なーんてね。冗談よ、冗談!一度、こんなセリフを言ってみたかったの」

 なんだこの夫婦、クソ面倒くせぇ。認めるなら、最初から素直に認めてくれたら嬉しいんだけどな。顔には出さずとも、オレの思いが彼女に伝わったらしい。

 沙「ごめんなさいね。ちょっと、意地悪をしてみたかっただけよ!本当は、あなたが初めて家に来た時から…。初めて会った時から、雪兎を任せる気でいたの。だって、とってもイケメンだし優しそうだし…。私も、あと30歳ほど若かったらお嫁さんに立候補してたわ〜」

 俊「おいおい、お母さん。君には私と言う配偶者と、四人の息子がいるのだからね」

 沙「あらぁ、これも冗談よ♡私にとっては、俊樹さん一筋なんですから」

 俊「母さん…」

 理「あのぉ…そう言う茶番は、もういいですから。とりあえず、雪兎くんとの結婚についてはお二人とも了承と言う事でいいんですね?」

 沙「えぇ、もちろんOKよ。ふしだらな息子だけど、どうぞもらってもらって頂戴」

 俊「母さん。そこは、『ふつつか』と言うのだよ」

 沙「あらぁ、私とした事が♡ついうっかりと、言い間違えてしまったわ。それにね。私達よりもずっと前に、お婆ちゃんが二人の交際を認めていたのよ。ここに、彼女の遺した手紙があるわ。こう言うのも、遺書と言って差し支えないのかしらね」

 理「お婆ちゃん…トミさんが!?」


 沙「えぇ、そうよ。僭越ながら、私が代表して読ませてもらうわね。その前に、だいぶ文字数がかさんで来たので一旦頁をまたぐわね」

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