どこ住み?LIMEやってる?

 みなさん、あけましておめでとうございます…。と、あまり手放しで祝える状態ではありません。

年末から危篤状態であった、雪兎くんのお祖母様…。伊勢嶋トミさんは、一週間ほど意識が戻ったり再び失ったりを繰り返しました。そして年が明けて、一月一日。ちょうど日付をまたいだあたりで、永い眠りにつかれた訳ですね。

 

 なので、オレからのご挨拶もいつも通りにしておきたいと思います。みなさんこんにちは、長谷川理玖です。

 すでに言ったとおり、雪兎くんのお婆ちゃんが年明け早々にご逝去されました。時期が時期なので、通夜と葬式は内々にて済まされたのだとか。さて、今日は告別式ですが…。三が日も済みやらぬ中、また生憎の雨の中。足元のお悪い中を、ちょっと目を疑う数の弔問客が集まっていました。これも、伊勢嶋家の人脈…。および、トミ婆ちゃんの人柄の良さが為せる技でしょう。

 通常だと会館でも借りるんでしょうけど、これも述べた通りの大豪邸なので余裕で大人数を収めていました。オレも、つい先ほど焼香を済ませたばかりですよ。沙都子さんが来客の応対で忙しそうなので、軽く挨拶だけ済ませて雪兎くんの部屋まで伺った次第です。

 まずは、思ったより落ち込んでいなそうで安心しました。ただ年末年始にかけて多忙だったろうから、疲れの色は隠せないみたい。ってか雪兎くん、学生服とかじゃなくてちゃんとした喪服なんだ。ちょっとだけ、萌えかけたけど…。流石に、不謹慎かなぁと思い直す。

 「おかしいよね。小さい頃から、病院の方で人の死には山ほど関わってきたのに。身近な人の死は、多分これが初めてなんだよね。だからかなぁ。何だか、ピンと来なくって…」

 「そんなもんだよ。オレも、小さい頃に爺ちゃん婆ちゃんが亡くなったくらいかな。だから、ちょっとその時の気分を思い出した…。だんだんと、現実感が湧いてくるんだ。だけど別に、絶対悲しまなきゃいけないって決まりはないと思うぜ」

 「…そうだね。婆ちゃん、意識が戻ったり無くなったりだったけど…。最後まで、ちっとも苦しそうじゃなかった。穏やかな顔をしていた。きっと、いい所に行ったんだろうなぁって…。だけど何も、新年ちょうどに亡くならなくてもねぇ」

 違うよ、雪兎くん。その日付も含めて、きっとトミさんの徳の深さの表われだったと思う…。多分きっと、そんな意味合いの事を言いたかったんだろうな。だけどオレが口にしたら、まるで亡くなった事がおめでたいみたいな…。そんな風に、受け取られてしまいそうな気がして曖昧に濁した。言葉が不器用すぎて、邪魔ばかりするなぁ…。

 何だかいたたまれなくなって、気づけば雪兎くんの頬にキスをしていた。雪兎くんも嫌がる事はなくて、お返しに頬にキスをしてくれる。今日は流石に、そう言うのは控えようと思っていたけど…。何だか、どちらともなしに唇を重ねていた。

 と思ったら、部屋の扉がノックされた。慌てて、お互いの身体を離す。

 「雪兎くん?そろそろ、親族一同で集まってって…。あぁ、お友達が来てたの。ごめんね」

 見た目の年齢から、最初は長兄の桜さんかと思った。でも違くて、東京に住んでいる雪兎くんの叔父さんだったみたい。道理で端正な顔立ちとか、どことなく雪兎くんに似ていなくもない。

 「辻村直です。初めまして。雪兎くんや沙都子姉ちゃんから、話は聞いてる。野球部の子で、親しいお友達がいるって。どうか、これからも仲良くしてあげてね」

 「はい」

 「お近づきの印に、飴ちゃん舐める?」

 「はい」

 「どこ住み?LIMEやってる?」

 「はい…?」

 あぁ。告別式の当日に、初対面である甥の友達を口説くんや。どこ住みもクソも、ここ群馬に決まってるだろうが。今のオレだから分かる事だが、この叔父さんはホモだな。また、向こうからもそう思われていると言う確信があった。どうも叔父さん的には、オレの見た目は好みのタイプど真ん中であったようで。光栄に思う所だか、何だかね。

 「あぁ、もう。分かったから、叔父さんはどっか行ってて!親族一同で、集まるんでしょ?用意したら、すぐに行くから」

 「叔父さんじゃなくて、お兄さんだってば〜」

 結局、雪兎くんに追い出されて騒々しく叔父さんは去っていった。もし彼からのアプローチに応えれば、雪兎くんと叔父さんの間で壮絶な三角関係が…?想像するだに、ちょっと空恐ろしい物があるな。

 そうかそうか。つまり彼が、雪兎くんの叔父さんだったんだな。つまりは、沙都子さんの弟。幼少期に、女の子の格好をさせて着せ替え人形扱いにしていたと言う…。

 「あれ?沙都子さんて、50行くか行かないかくらいだよね?若く見えるけど、あの叔父さん年いくつよ?」

 「確かに母さんとは年離れてるけど、俺と桜兄さん程じゃないよ。驚かないで、聞いてね。あの見た目で、今年○0歳だって」

 「は?オレの親父よりも、年上?マジか」

 沙都子さんと言い、見た目の年齢どうなってんだこの家系。だけどいいように考えれば、二人と血の繋がっている雪兎くんもこのまま老けない可能性がある…?つまり年上だけど、いつまで経ってもショタ犯してる気分になれるのか。それはそれで、悪くないんじゃないかって気になってきた。

 「りっくん、何考えてるの…?話、聞いてたでしょ。ごめんね。せっかく来てくれたけど、俺そろそろ行かなきゃ」

 ごめんなさい、下らない事考えてました。門の所まで送ってもらえると言うので、雪兎くんと一緒に伊勢嶋邸を後にする。言うて、玄関から門扉までに結構な距離があるんだけどね。二人で庭を歩きながら、決心してオレは話題を出した。

 「雪兎くん。それじゃ、疲れの出ないように頑張って。あとさぁ…。年末に、抱負がどうのって話したじゃん?あれに、ちょっと追加をしたくって。それも、今年や来年にすぐどうこうって話じゃないけど。だけど、一人では出来ない事だから雪兎くんの協力が必要なんだ」

 「?そうなの?何だい突然、藪から棒に。でも、いいよ。りっくんの夢に、協力出来るんなら。俺に出来る事なら、何でも言って」

 「ん?今、何でもって言ったよな?えーと、それじゃぶっちゃけて言うけど。その、オレとだな…」

 「うん」


 「近い将来、オレと結婚してくれないかな…なんて」

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