いわゆる一つの、エロぼくろ

 間もなくして、声の主が自宅部分?の部屋から出てきた。やはりオレと同い年くらいだが、身長はだいぶ低い。言うて、オレが中一にしてはだいぶ高くて170超えてるんだけどね。


 「おぉ、いつもすまんのう。沙都子さんに、お礼を伝えておくれ。後で、美味しく頂くとしようぞい」

 接骨院のジジイが言った。このジジイにも孫だかひ孫だか、オレと同中に通ってる奴がいるらしいが…。今いるこいつは、どうもそうではないらしい。改めて、目の前の人物を観察すると…。

 男にしては、綺麗な顔だな…と思った。だけど、「女っぽい」って訳でもなくて…何て言うんだろう。髪の毛は、いわゆる「天使の輪」が出来るくらいに真っ黒だ。実は、ちょっとだけ憧れてはいるんだよな。じゃあ、素直に黒髪に染めろって?それもそれで、何だか悔しいじゃん。

 反対に、肌は向こうの景色が見えてんじゃねぇかってレベルで真っ白だ。オレは日々の練習で日焼けして真っ黒なので、こちらも多少憧れなくはない。整った顔の整った口元には、一点のホクロが付いている。いわゆる一つの、エロぼくろってやつだな。

 「あっ…」

 と、目の前の奴が大きな瞳をさらに見開いて言った。うっすら開いた口からは、これまた真っ白な八重歯が覗き見える。

 何をそんな、驚いて見る事があるんだ…?と思ったが、普通にこの金髪だろう。そりゃまぁ、目立つよね。一瞬、目を見張るのも頷けますわ…。

 沈黙に気まずくなったか、目の前の奴は軽く会釈して接骨院を出ていった。後で聞いたがオレより一つ歳上らしいので、こちらから挨拶すべきだったかな。部活では、監督からやかましく礼儀を叩き込まれてるから…。

 「伊勢嶋さんの所の、四男坊じゃよ。ここらへんじゃ、有名じゃろ」

 聞いてもないのに、接骨院のジジイが教えてくれた。確かに、伊勢嶋医院と言えばこの界隈で知らない者はいない。個人経営ではあるが、総合病院と見紛う規模でここいらの人間はたいがい一度はお世話になっている。

 言うて内科なので、馬鹿=風邪引かないのオレ自身はお世話になった事がないんだけど。まぁ妹が風邪引いた時とか、後はうちの婆ちゃんが…。この話も、また今度ね。

 からっ風が吹いたら飛びそうなこの接骨院とは、だいぶスケールが違うけど。医者同士、何らかの繋がりがあるんだろう。この時のオレは、それ位にしか考えていなかった。


 これが、オレと先程の彼…。伊勢嶋雪兎くんとの、初めての出逢いだったんだ。

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