第9話 貴女がもっとも美しい
「ん?」
「えっと…その。」
自分でも驚いた。どうしてこんなこと口にしてしまったのだろう。
「何とかします、ってどうするんですか?」
期待というわけでもない瞳を葉一さんは向けてくる。
「とにかく!何とかします!」
「無理しなくていいんですよ。」
葉一さんはやれやれ、と私の眉間を指先でグイッと押した。
「そんな難しい顔しないでください。君を困らせたいわけじゃないんです。」
私はその指を掴んで退けた。
「何とか、必ず何とかします。」
とは言ったものの、具体的に名案があるわけじゃない。勝率がかなり低い賭け事のようだ。でもそう答えずにはいられなかった。
「……気持ちだけ貰っておきます。」
「私は!絶対何とかします!」
「もういいですよ。ほら、その話はもうおしまいです。あ、そうだ。花でも見に行きませんか?山茶花以外にもたくさん花が……」
葉一さんの言葉をぴしゃりと遮って続ける私。
「あなたが何と言おうと聞きませんから。」
「頑固者だなぁ。」
「よく言われます。」
そう言った私の声は自分でも分かるくらい震えていた。どうしたらいいか分からない、でもどうにかしたい。それだけだった。
「困った人ですね。」
ふわりと鼻を掠めた花の香。
包まれる優しい温もり。
それが葉一さんに抱きしめられていることに気付くのに少し時間がかかった。
「長い間いろんな人を見て来ましたが、風子さんみたいな人は初めてです。気持ちだけ貰っておくつもりでしたが、あなたを見ていると何だか本当になんとかしてしまいそうな気さえしてきます。」
「絶対なんとかします。だから、私を信じてください。」
私は顔を上げて葉一さんの顔をじっとみた。きっと泣いた後だからかなりブサイクな顔をしているだろう。
葉一さんはそんな私の顔をみて、透き通った赤い瞳を揺らしながら、微笑んだ。
「ではそんな風子さんに赤い山茶花の花言葉を送ります。」
『貴女が最も美しい』
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