第6話 椿園の閉園
「こんにちは。」
「ああ、眞守さん。こんにちは。最近毎日来てくださっていますね。ありがとうございます。」
「すみません。」
「謝らないでください。嬉しいんですよ!うちも年々お客さんが減って大変なので、こうやって来てくださる常連さんで成り立っているといいますか。」
あれから毎日植物園へ通うようになった。
おかげで受付のお姉さんにも名前を覚えてもらって、日常会話を楽しむ程度には仲良しになっている。
「今日はなんだかおめかししていますね。お出かけ帰りですか?」
「いえ、いつも通り仕事帰りなのですが、今日はちょっと早めに仕事が片付いたので、ちょっと買い物もしてきたんです。あ、これどうぞ。」
受付のお姉さんに、来る前に寄って来たカフェのクッキーを差し入れする。
「わあ、美味しそう。ありがとうございます。」
「いつもお世話になっていますので。」
「お世話になっているのは私たちの方ですよ。あ、じゃあちょっと待ってください。」
お姉さんは一旦奥に引っ込むと、ごそごそと引き出しを探って、それから一枚のポストカードを持ってきた。
「これ、数年前のものなんですけど、ここの山茶花が植樹されて100周年記念のものなんですよ。良かったらどうぞ。確かいつも椿園の方へ向かわれてらっしゃいますもんね。」
「いただいても宜しいのですか?」
「ええ。むしろ眞守さんに持っていて欲しいといいますか。」
受付のお姉さんが少しだけ寂しそうに視線を落とした。
「どうされたんですか?」
「いえ、その…椿園が…。」
「椿園が?」
続く言葉に私は思わず、葉一さんのに持ってきた差し入れの紙袋を落としてしまった。
「椿園の場所、伐採して新しい施設を作るという話が出ているんです。」
「え?」
時期はまだ未定だが、ほぼ確定事項らしい。
スタッフも総出で反対したそうだが、植物園の経営状況が厳しい上に、老朽化、集客を見込める他の花にコストをかけたいなどの理由等により、椿園の閉園の話になっているらしい。
「植物園辞退は存続できそうなのですが、椿園は私も大好きですし、スタッフ一同大切に育ててきたのに…。」
受付のお姉さんの目尻にもうっすら涙が浮かんでいる。
「それってどうにかならないんですか。」
「どうにもならない……と思います。」
お姉さんは無理やりにでも笑顔を作る。
「ごめんなさいね、こんなお話をして。まだ日にちも決まっていませんし、思い存分、椿園を見てください。」
私はペコリと頭を下げて、さっそく椿園に向かった。
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