勇者×魔王連合軍
「閣下、舟の用意が整いました!」
ビシっと気を付けの姿勢で敬礼の姿勢をとったのは、この暗黒魔大陸でも禁忌とされる、死霊術で作られたスケルトン・ナイトだ。
彼が自分の額につきつけた手の平は白い骨を露わにしている。
声帯も肺も無いが、どうして声を発しているのか?
全くアンデッドとは不可解な存在だが、そういうものなのだ。
そして彼が敬礼した先にいたのは、勇者と敵対しているはずの魔王だ。
兜、肩甲、鉄靴、全てのパーツが禍々しい形に尖った甲冑を着た魔王は、骨だけの騎士に敬礼を返した。
「ご苦労。下がってよし」
「ハハッ!」
骨だけの兵隊はカラカラと音をさせて戦列にもどっていった。
「死霊術で作られた兵隊か。魔王の国でも、この魔法は禁忌のはずでは?」
勇者アレスは訝し気に魔王に問いかける。
死霊術とはゾンビやスケルトン、リッチを召喚して使役する魔法だ。
死者を安息から呼び覚まし使役するこの魔法は、勇者たちが住む人間の国はもちろん、魔族たちの住む暗黒魔大陸でも、その使用は固く禁じられていたはずだった。
「納得しているわけでは無い。しかし、使わざるを得んのだ」
「一体どういう事だ?」
「我々もお前たちのパーティにいたファインというものが使う『NBC兵器魔法』の研究を進めていた。それでいくつかわかったことがある」
「『NBC兵器魔法』はいくつかの系統に分かれている。N魔法は今のところ、ある一点を除いて対処のしようがない。しかしBC兵器魔法には共通する、明らかな弱点があることが判明しているのだ」
「弱点……?ファインが使ってるところをみた僕たちからして、あの魔法に弱点があるとは思わなかったけど……あっ!」
「勇者、気付いたか?……アンデッド、実体を持たない死霊にBC兵器が効いたことはあったか?」
「そう言えば無かった!そういうときは大体リリーの神聖魔法で浄化していたはずだ……。そうか!NBC兵器魔法は魔法に見えて全て『物理攻撃』なのか?!」
「そうだ。そしてあの不可解なバッドステータス『おせん』もアンデッドには効果がない。アンデッドは毒に対しての完全耐性があるからな」
「そうか、だから禁忌を侵してまで、魔王はアンデッドの召喚を……」
「我々はお前たちが破壊し尽くした土地を何度も調査してみたのだ。これまでに払われた犠牲は少なくなかったがな」
「す、すまない……あの魔法があそこまで危険なものだとは認識していなかったんだ。ただ威力の高いだけの魔法だとばっかり」
「無理もない。『鑑定』を使わなければわからない目に見えない毒など、これまでなかった。あの魔法は何かがおかしい。異質すぎるのだ」
「異質というと?確かに変だけど」
「曖昧な言い回しになるのだが、世界の
「たしかに、どんなバカでも自分の住む土地をメチャクチャにしてまで争うなんて、考えついても実際にやろうとは思わないよな」
「まあ、アンデッドに効果がないあたり、異世界に存在する神格、不死者の王あたりが、あまねく生命を根絶しようとして思いついたのかもしれんがな……」
「……それは、そうか……魔王、僕はちょっと思いついたことがあるんだ」
「なんだ?勇者アレス」
「このNBC兵器魔法に限らず、『スキル』っていうのは人間が神から授けられるものとされている。なら、これはそもそも神が意図した状況なんじゃないか?」
「この状況が……?」
「そう、人間の勇者と魔族の王、魔王と勇者が協力して軍を組織しているって事がさ。神は争いの続くこの世界に、世界を滅ぼしかねないとんでもないスキルを送り込んで、この両者の対決を終わらせようとしたんじゃないか?」
「だとすると、神とやらはとんでもなく邪悪な存在だな。それを思い付くこれまでに、この世界で一体何人が死んだ?」
「お互い様とはとても言えないね」
「ああ、しかしこれはチャンスでもある。この機械を逃せば、人と魔が手を取り合うことなどありえないだろう」
魔王は海岸に整列したアンデッドの兵士と幽霊船を見る。
緑色の怪しい炎が灯ったランタンを振って、バンシーたちが船同士交信を行って、出航を始めた。目指すは人間の領域だ。
「何も知らない人間達からしてみれば、勇者お前は魔族についた裏切り者だ。身の振り方を考えるんだな。」
「僕たちも現地に行こう。そして王国の偉い人に説明するんだ。これ以上争う必要はないってね。現にあの魔法が示した、この戦いの不毛さを」
「……お前が勇者と言われる理由が分かった気がするな」
「何か言ったか?」
「いや、何でもない。」
勇者と魔王は死霊とスケルトンからなる、総勢100万の軍勢を見送った。
目指すは人間の領域、そしてこれまで暗黒魔大陸で異常な威力の魔法を振るってきた、『NBC兵器魔法使い』ファインの誅殺だ。
この争いを最後に、全ての争いを過去のものにしないといけない。
それこそが勇者として神に選ばれた自分の責務だと、勇者アレスは思った。
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