勇者、魔王城に行く

 勇者アレス、僧侶リリー、盗賊ゴンザの勇者パーティ一行は暗黒魔大陸にある魔王の居城へとたどり着いた。


 魔王城は見る者を震え上がらせるデザインであった。


 剣のようなシルエットの尖塔の頂上には魔王軍の旗がはためいていて、その城の壁は魔王の心をあらわすかのように漆黒に染め抜かれていた。


 勇者は魔王城の門へと歩みを進めるが、なかなかたどり着けなかった。


 城の前には無数のテントがあり、魔王のしもべたちがそこに横たわり、通る勇者たちに「水を」「食べ物を」「薬を」などと言って、すがりついてくるのだ!

 

 おお何と非道な魔王!!!シモベすらまともに養わずに、戦争を続けているのか!

 マモノにすら救いはないというのか!


 しかし心優しい勇者は、魔王のしもべであっても手を差し伸べる!

 なんというわけ隔てない心優しき者なのだ!


 勇者は初級、中級の回復魔法しか使えないが、精いっぱいの手当てをする。

 その姿に神官のリリーも心を打たれ、彼らに治癒魔法をかけた。


「これは、どういう事でしょう、皮膚がまるで崩れ落ちているようです」


「それにどういう事だ……?魔王城がまるで難民キャンプじゃないか」


 治療を続ける二人に「おーい」と声をかけるのは、魔王城近くの野原から帰ってきたゴンザだ。彼の手には僅かな数の「やくそう」が握られていた。


「思った通りだ。暗黒魔大陸の『やくそう』を集められないかそこらを見てきたが、スキル鑑定の結果、ほとんどが『おせん』状態になってやがる」


「やっぱりか……ゴンザ、ご苦労だった」


 どうやら勇者は何かに気付いた様子で相談を始める。

 下手に知恵があるというのは困りものですね。


「やっぱりか、NBC兵器魔法の影響だな……どんどん『おせん』の範囲が増えているみたいだ」


「やっぱ追放したのはまずかったんじゃねえかアレス。あいつがあんなにめちゃくちゃにテッポードンを連発するのを予測しろってのは無理があるけどよ」


「やはり神の名のもとに暗殺するべきだったのでは?アレスは甘すぎます」


「あんなのでも一応仲間だと思ってたんだが……俺のミスだ、すまない」


「いまさら謝ってもしょうが……、何かくるぜ」


 なんと魔王城の城門から、憎しみに燃えた瞳をした、あれ?魔王その者が

 ん?台本にないな、何かミスったか?


 えーっと、魔王は勇者パーティに歩み寄り、語り掛ける


「勇者アレスだな。例のファインとかいう者の姿が見えぬようだが……」


「あ、あぁ、あいつは、『追放』したんだ」


「なっ、野に放ったというのか?!」


「だって、戦う必要が無くなれば、あんなバカみたいな威力の魔法を使うはずがないと思ったんだよ!」


「なるほど……だからか。やつは腹いせか何かで魔法を打ちまくったのか」


「いや、たぶん、うんそうかもしれない」


「しかし魔法球による占いでは、ヤツはすでに人の領域に帰ったようだぞ。大丈夫なのか、アレを殺さなくて」


 おやおや、何か様子がおかしい魔王と勇者、一体何を企んでいるのか?


「俺が甘かった、正直なところ、あれはもう人魔共通の敵だと思う。物は相談だが、魔王、停戦、そして一時協力してファインを始末しないか?」


「……まさかお前から先にその言葉が出るとはな。しかし……魔族の王としては、その提案を拒否する理由がない。停戦に同意しよう」


 なんと、驚いたことに勇者と魔王が電撃的和解をしてしまった。


 その交渉を成し遂げたのは、彼らが共通の問題を抱えていたからだ。


 すなわち【NBC兵器魔法使い】のファインが完全にコントロール不能になり、何をするかわからない状態になったという問題だ。


 ふむ、少し早回しになったが、これはこれでいいとしましょう。

 これからどう事態が動くのか?それは神すらも知り得ぬこと。


 紋切り型の表現ではありますが、そうですね……、

 こうご期待とでも言っておきましょうか。

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