海を渡ろう

「さて……人里に帰るとしても、これをどーするかだよなー?」


 僕の目の前には、どっぱーんと波のぶつかる音がこだまする、極彩色の海がひろがっている。


 暗黒魔大陸と人里を隔てている大海だ。


 勇者パーティはこの海を、とある王国の海軍の助けを借りて渡って来た。


 そして航海の途中でサーペントやクラーケンがわんさか襲ってきたから、僕がいろんなNBC魔法を使いまくったんだっけ。


 「サーリン」や「ヴィエックス」はすぐに海に溶けて消えてしまうから、なかなか苦戦したのを覚えている。だから思い切って広範囲に「エーンソー」を展開して乗り切ったんだっけな。


 それでも襲ってくるから、夜通しいろんなNBC魔法を使った。

 そうして勇者アレスと僕は、厳しい航海をなんとかして乗り切ったんだ。


 懐かしいな。この極彩色の海は、魔物が居なくなったころに生まれた。


 きっと魔物が、この海本来の姿を隠していたのは間違いないだろう。


 青い、どこまでも青い、澄んだ青空を映したような色。

 偽りの海の姿は、もうどこにも無い。


 赤やムラサキ色の波の間で、地上に現れた虹みたいな色がひるがえっている。


 勇者アレスは、この暗黒大陸本来の、虹色に輝く美しい海を取り戻したのだ。


 ふふ、勇者パーティと一緒になって、これを成し遂げたと思うと、ちょっと誇らしい。


 でも、あの時と違って、岸にはもう、王国の船も無い。

 うーん、どうやって帰ろうか?


 岸辺には白い骨のようになった流木が、いくつも流れ着いている。

 そうだ、これを使って、イカダを作ろう。


 道具はこの海岸に漂着している難破船や、魔物の死骸なんかの素材から作れるだろう。


 ・

 ・

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「ふぅ。なかなか手ごわかったな」


 僕は時間をかけて素材をかき集めて、何とかイカダをでっちあげることに成功した。


 帆に使う布がなかなか見つからなくて、そこはずいぶん苦労した。

 海岸を長い事歩いてようやく見つけられたのは、何かの生き物の翼の膜だけだった。


 少しドラゴンに似ているけど、たぶん違うな。ドラゴンは翼が5つもないし、手が3つで指が左右バラバラの数だった。きっと新しい魔物だろうな。


 暗黒魔大陸に僕たちがやって戦い始めてから、次第にこういった妙な形の魔物が増えてきた。


 きっと魔王が新たなシモベを作ろうと、四苦八苦しているのだろう。

 生命をもてあそぶなんて、非常に、命に対する侮辱ぶじょく冒涜ぼうとくを感じる。


 僕は魔王に対して、激しい怒りが込み上げてきた。


 いや、でも僕はもう勇者パーティには居ないのだ。魔王と戦うのは、勇者アレスの仕事だ。


 そう、僕はこれからひとり人里に帰って、ゆっくりと生活をするのだ。

 ぼくひとりで魔王軍と戦うなんて無謀だ。

 無念だけど、ここから先はアレスに任せるしかない。


 僕は出来立てのイカダに乗って漕ぎだすと、後ろ髪を引かれる思いで、暗黒魔大陸を後にした。


 しかし遅いな、手で漕いだとして、人里に辿り着くのは何時になる事だろう。


 でもすぐに名案を思いついた。


 ――そうだ、僕には【NBC兵器魔法】があるじゃないか!

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