磯浜市立甘木小学校6年1組 明透恵(あけすめぐみ)

 わたしは隣のクラスの貴狼くんからいきなり殴られそうになりました。

 周りのクラスメイトが助けてくれたので、ケガはありませんでした。

 襲われた時に「どうしてわたしなの?」と問いかけたら、「この本に書いてあったのだ!お前達のグループは諸悪の根源なのだ!」と貴狼くんは言いました。そして、わたしに見せてくれたのが『正しい紙の切り方 』でした。


 さっそく、わたしは書店で手に入れて読み始めました。

 こんなヒドイ内容の本は初めてでした!

 前半の自叙伝では、「自分が不幸なのはあのグループのせいだ!」と、自己弁護と責任転嫁の羅列ばかりでした。不幸になった原因は自分が怠惰な事だけなのに、わたし達のグループを目の敵にする事で自分を慰めているだけの文章でした。


 後半になると、「この国全ての不幸の原因」としてわたし達のグループを名指しで批判していました。

 わたし達のグループは御先祖様の言い付けを忠実に守って生活しているだけです!


 遠い昔に、わたし達の御先祖様の街が崩壊して仲間がバラバラになり、この国中に散らばりました。仲間との絆を示すただ一つの証が「御先祖様の言い付けを守る」事なのです。移住した地元の風習と違っていても頑なに言い付けを守っていました。その事で言われ無き誹謗中傷にさらされた事もありました。それでも言い付けを守り、長い年月を重ねて地元の人達と仲良くなりました。

 この本は長い間に築き上げた御先祖様達の努力を無駄にする物なのです!

 家でお父さんに聞いたら、「この本が原因で他の地方に住んでいる仲間が迫害されている」そうです。


 6年2組では、貴狼くんの意見に賛成する人が半分近くになっているそうです。貴狼くんを批判する人は、貴狼くんの側近から暴力を受けているみたいです。貴狼くんは、近くに行われる児童会役員選挙に会長候補として立候補して、この学校にこの本の教えを広めると言っていました。

 場合によっては、わたしは他の学校に転校しなければならないと思いました。


 わたしは、この本がこの国中から全て無くなって欲しいと思いました。

 そして、国中に散らばっているわたし達の仲間がいつの日にか、御先祖様が住んでいた土地に集まり新しい街を作れる事を願っています。


 おわり



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