第5話 老ゴブリンと出会うおっさん冒険者
「そういえばディアさんは道具屋さんにツケがありますよね、その装備置いて出て行ってください。冒険者の登録者が踏み倒すなんてとんでもない!」
ギルド受付に装備まで取られ、ネルシャツにウールパンツのみという格好で放り出される。
「せめて武器は返してくれ!杖がないと魔力消費量が倍になるんだ!」
「杖を売らないとツケの半額も返せませんよ……。これでも不足してるので、今日中に不足分を持ってこないとギルドから立替になり、規約に則って解雇されますから気をつけてくださいね」
「待て、その杖はそんなに安くないはずだ!」
「破滅する転売ヤーみたいな事を言わないで貰えます?現金でツケを返せるだけ用意すれば杖はお返ししますよ」
「その現金を用意するためには杖が居るだろうが!」
料理人さん、料理を作ってくれたら借金チャラにしてあげましょう。ただし借金のカタに料理道具と食材全部差し押さえ、みたいなっ!
トボトボと街を出て森に入るディア。
ワイルドキャット?安全だけどあんな小さくてすばしっこい逃げ回るのを狩るのは無理がある。
傷付いても死ぬまで戦う狂戦士(バーサーカー)みたいな魔物を狩ればいい。
相手のダメージで気絶する→死ぬ
魔力が切れる→死ぬ
こっちのダメージが通らない→死ぬ
死と隣合わせの殴り合い。かつ素手の支援職。
「俺は自殺志願者かよ!」
装備はネルシャツにウールパンツのみ、神官帽を被った素手の男ーディアが入っていく。
これが魔物が出ない森のキノコ狩りでも、地元のおっさんに森を舐めるなと殴り飛ばされる装備である。
森の奥へ数時間ほど向かったところで、ディアは休憩しようと火をおこす。
「神官の方ですかな?」
魔物しかいないはずの森で急に声をかけられ、振り返ると
「見たところ武器も持ってませんし、友好的なニンゲンですかな?」
いつ近づかれたのか。
好々爺然とした容貌の老ゴブリンがディアのすぐそばに立っていた。
「武器も持たず森に入る友好的なニンゲンに会うのは久しぶりですのう」
「人の言葉がわかるんですね」
「まぁ、長く生きておるからのう。この魔物の森の長として、ニンゲンをたくさん殺してきた。ニンゲンの嫁も貰ったしの」
「人間の嫁が居るんですか」
「あぁ。大恋愛じゃった。子も孫も居る。嫁には先立たれてしまったがのう。ほら、この人は安全じゃよ出ておいで」
老ゴブリンが手招きすると、人の面影を残したゴブリンハーフの幼女達が出てくる。
「クッコロー!」
「おぃたん、クッコロー!」
ゴブリンハーフの幼女達がキャッキャとディアに懐いてくる。
「……クッコロ?」
「嫁の口癖でな、毎日クッコロセ、クッコロセ、と言うので子や孫たちも覚えてしもうた。人間の挨拶じゃろう?」
「えぇ、いや、まぁ。はい」
ゴブリンハーフの幼女達に真実を告げるのは酷すぎて、ディアは口をつぐんだ。
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