第4話 ギルド受付に相談するおっさん冒険者

「何とか、パーティーを紹介して貰えないか?支援職は慢性的に不足していると言ってたじゃないか」

 ディアがそういうとギルド受付は、『コイコイ』と手招きして歩き出す。

 移動先はギルドの済にある相談窓口だった。


「相談はこっちでやらないと、私の査定にひっかかるので……」

 話が長くなりそうだと、相談コーナーへと移り……もとい隔離する。


「確かに慢性的に不足はしてます。ディアさんは魔法研究者って知ってますか?」

「いきなり話が飛ぶな。魔法研究をしている職業に就く人達だろ」

「そうです。そこで一つ私の知人の魔法研究者業界のお話を一つ」


 こほんと咳払いを一つして、ギルド受付が続ける。


 ~ ある魔法研究所 ~

 そこでは斬新な時空魔法を作るという仕事に打ち込む青年がいた。

『まだ完成していないだと!所内開発とはいえ、もうとっくに納期は過ぎているんだぞ……これ以上は来期の予算確保と単価に影響するぞ』

『で、でも人が足りないんです!ほら、これもしなくちゃいけない。あれもしなくちゃいけない。安全性の検証だけでもあと三人は必要です。人員が不足しすぎてます!』

『そうか、じゃあ人を増やそうか……』


 数日後、魔法研究所は上司により人員募集がかけられ、十人の人材がやってきた。

『時空魔法を使える人、もしくは魔法大学での時空魔法研究科を卒業した人は居ますか?』

 手を挙げたのは四人。六人がそのまま帰された。


『この中で斬新な時空魔法の構築を考えた事がある人、もしくは作れそうな人いますか?』

 手を挙げたのは二人。二人はそのまま帰された。


『あなた一人でも作れる、もしくは給料据え置きでサビ残でこなしてくれる人はいますか?』

 なんと一人が手を挙げた!


 数日後、上司が怒鳴り込んできた。

『なんで誰も採用しなかったんだ!』

『だって斬新な時空魔法を一人で作れるサビ残も可能な美少女が一人も居なかったんです。あいつらは全く使えませんよ。ああ、人手不足だ。人材が足りない。どこかに一人で全ての仕事をサビ残でしてくれる美少女は居ないだろうか。人手不足だ』

 ~ 完 ~ 


「慢性的に支援職が不足していると言っても、その求めるレベルが高すぎて誰も支援職を入れないんですよねぇ。せめてディアさんの攻撃力や体力が戦士並みか、盗賊並みの器用さか、高威力な攻撃魔法が使えればねじ込みやすいんですけど」

「どういう事なの!?お前……支援職に支援させながらタンクやアタッカーをやらせるつもりなのか!?」

「……せめてディアさんが美しい女性や男性ならパーティーにねじ込みやすいんですけどね」

「どこにとは言わないがねじ込まれやすくもありそうだけどな」

「整ってなくて良かったですね」

『不細工なおっさん』という言葉をオブラートに包んで、ギルド受付はうふふと上品そうに笑う。


「今日一日で解った事がある。支援職は支援する職業なんだ。戦う人を支援する事に特化した職業なんだよ」

「名前通りですね」

 ギルド受付が結論を促す。

「ソロだと無理だ。なんとかしてくれ、このままじゃレベルが上がらない」

「上げなくても良いのでは?ほら、安全なドブ掃除や採取依頼もありますよ」


『ピンハネする搾取依頼だろうが!ギルド通さないで直接日雇いされたほうが金額が高いじゃないか!』


 ディアは喉の先まで出かかっている言葉を飲み込もうとする。


「清掃業者の日雇いで直接働く方がワリの良いギルドに搾取されるような依頼しかできないだろ」

 口から出たのは大差ない言葉だった。


 搾取している実感はあるのか、ギルド受付がディアから目を逸らす。


「せめてソロでワイルドキャットを狩れるくらいまででいいんだ、なんとか臨時で入れないか?その間は正式なパーティーメンバー扱いじゃなくても構わないし、支援はきっちりこなすぞ」

「そういう技術の安売りが支援職の価値を下げているんだと思いますよ?」

 ヤレヤレ、と首を横にふるギルド受付。

「あとディアさんはレベル10ですよね?支援職だとスキルに恵まれなければソロで魔物を狩れませんよ。アタッカーもタンクもできないじゃないですか」

「支援職にアタッカーやタンクの役割も兼任させるようなブラックパーティーは辞めろ!」


 そしてディアはギルド受付にソロを勧められた事を思い出す。

「ちょっと待て、お前は俺が一人で狩れないだろうと思っていたのにソロで活動してみればいいと言ってたのか?」

 ギルド受付は、やべっという顔に一瞬だけ崩して、無表情に戻る。

「でも奇跡的に倒せる可能性も微レ存ですし」

「人の悩みを奇跡や微粒子レベルの存在にかけるな!」

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