第32話

─────黒暗堂の帰り道。

昨日のあの時の選択がよかったのかと考える。

考えても意味はないことはわかっている。

どこかで正しさを求めてしまう。

すこしだけ昨日を思い出す。

───「柊、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。少し落ち着いた…」

僕は柊を腕から離す。

柊はうつむき、長い前髪で目元が隠れる。

「とりあえず、後処理をするからここで待っててくれ」

「…………」

僕は柊を残し、視聴覚室に入る。

倒れている二人の側により、まず片方を起こす。

隠れていた有本と呼ばれた女の子と同じ、反応をされたが液体を嗅がせることに成功した。

もう片方の女の子にも液体を嗅がせた。

これで記憶がちゃんと消えたかは分からないがやらないよりましだと思った。

「終わった……」

「結城さん、何をしてたの……?」

後ろから声が聞こえびっくりする。

「柊……」

僕は彼女の方を向く。

「彼女達の記憶を消していた」

「記憶?」

「ああ。今日、ここであったことはなかったことにしてもらう」

「ど、どういうこと……?」

「もちろん、柊に危害を加えていたことは消えないと思う。今まで通りだ。けれど柊が悪魔に取り憑かれたことは忘れてる」

「…………」

「もし止めたこと、彼女達の記憶を消したこと、怒っているなら僕を憎んでくれて構わない。喜んでそれをうけ入れる」

「怨んでいないよ……。結城さんはまた私を助けてくれたから……」

そう言われると悲しくなる。

「そうか……。そうだ、柊。柊も少しだけ嗅いでおけ。そうすれば今日のことは忘れる。罪の意識も消えるはずだ」

悪魔に取り憑かれていたときの記憶はその人物の頭の中にはっきりと残る。

だから自分が犯した罪は消えない。

「…………。消さなくて大丈夫。やっぱり、結城さんは優しいね……」

「けれど柊!今まで通りに戻ってしまう。それで───」

「大丈夫。悪魔に願ったのは私だもん……。悪いことをしたのもわかってる。悪魔に願ったことが罪なら背負うのが私の罰だから……」

柊は顔を上げ、精一杯の笑顔で言った。

僕は何も言えなくなっていた。

僕はこのとき、気が付いたことがあった。

柊は、この子は強いと…………。

見た目は確かに暗くて冴えない。

おどおどしている性格も弱そうに見える。

けれどそれは表面上において。

内面は違う。

彼女は今まで独りで心の均衡を保ってきた。

どんな迫害にも、どんなことにも。

柊はこんな僕よりも強いと。

「そうか……。わかった……」

僕は納得し、処理を済ませ、その場を離れた。

────柊とはファリス学園で別れた。

夜があけ、彼女からの連絡はなく、ただこの件に関しての後腐れを残したまま全てが終わった。

僕はあの時柊の手を貸すことが本当によかったことなのか分からなくなっていた。

モッチーには黒羽の為と言ったが中身では不安だらけで虚勢しかなかった。

これで正しいのかと悩み、一日が過ぎた。

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