第31話
─────「で、犯人の目星はついたかい、結城くん?」
モッチーはそう言うとニヤッと笑った。
「情報がありますけど、何処までが確かなのかわかりません」
「その言い方だと目星がついていないみたいだね」
犯人を捜そうにも名前がわからなければ姿さえもわからない。
僕はため息しかでない。
土曜日の午後二時二十分、モッチーのいる部室。
柊が悪魔に取り憑かれた日から一日たった。
僕はモッチーに事件のあらましを話しにきていた。
「そんなに焦らなくてもまだ時間はあるから大丈夫でしょ」
「そうなんですけど……」
「ツンちゃんの為かい?」
「………………」
「結城くんならそういう反応すると思ったよ」
モッチーはわかっていたかのように言った。
僕は恥ずかしく何も言えなくなった。
「まぁ、恋人を想って何かをするって綺麗なことだからねぇ。しかし、結城くん、大変だったね。女の子を四人も助けて」
モッチーはニヤニヤしながら言った。
「女の子の部分、強調するの止めてくださいよ」
「悪いね、冗談だよ。でも僕の言った通りだろう?君が言っていた柊って子は厄介だって」
モッチーはへらへらした表情から真剣な表情になった。
「確かに、彼女は悪魔と契約しました。でも柊は悪くない」
「そうだね、その女の子は厄介だけど悪くない。悪いのはデビルスターを与えた協力者。それと──」
「…………?」
モッチーは一瞬、言葉を切ると僕の目をみて言った。
「キミだよ、結城くん」
僕は意味がわからなかった。
「ど、どういう意味ですか?」
「もし、キミがその女の子に優しくしていなかったら今回の事態にはならなかった。違うかい?ただ事の展開を早めてしまっただけじゃないかい?」
「………………」
僕は黙ってしまう。
モッチーの言う通り、今回のことはただ先を急ぎすぎたのかもしれない。
もし僕が柊の手帳を彼女に返しただけなら悪魔と契約するのはもう少し先の未来になるはずだった。
けれど結果はただ単に彼女に悪魔と契約させるのを速めさせただけ。
僕が彼女と出会わなくても三人のいじめによって彼女が悪魔を呼びだしていただろう。
僕は自分が愚かなことをしているのはわかっていた。
間違いで悲しいことであっても。
だから僕は。
「わかってます。けれど……。けれど、結果が変わらなくても間違いでもそれが良い方向にいくのなら僕は疑いません」
黒羽の為になるのなら。
モッチーは黙り、ふぅとため息をつくと口を開いた。
「それもツンちゃんの為というだろう。意地悪言って悪かったよ、結城くん」
モッチーは真剣な表情から砕けた表情になる。
「本当に彼女想いなんだねぇ、結城くんは」
彼は意味深げなことを言い、怪しく笑った。
────「私が渡した薬は効いたかしらぁ?」
刹那は煙管を口から離し煙を吐き出した。
「ええ、物凄く効きました」
モッチーに報告した後、僕は黒暗堂に足を運んだ。
薬と昨日の件の報告、そのお礼をしに。
「けどあんなに強烈な匂いがする物だとはおもいませんでした」
「ふふ。だから効くのよぉ」
刹那は身につつんでいたドレスのような服の袖で口元を隠すようにして笑った。
「でも助かりました。あれが無ければどうしようもなかったです」
「そう。それはよかったわぁ」
刹那は煙管を口にくわえ、煙を吸う。
「それにしてもなんであの時、柊から連絡があるとわかったんですか?あのとき運命とか言ってましたよね?」
「………………。なんでだと思う?」
分からないから聞いてるのに逆に質問されると返答に困る。
「わかりません……」
「それでいいのよぉ。運命なんてわからないもんなんだからぁ」
「はぁ、そうですか……」
やっぱりこの人はすぐにはぐらかすな……。
まぁ、モッチーの言ったように焦らずに捜してみるしかないか。
「そう、そう。このデビルスターは完全に出来上がってるわぁ」
刹那は染々と言った。
昨日の一件があるため刹那にデビルスターを鑑定してもらった。
やっぱりあの悪魔が言っていたことは本当だった。
「けれど考えたわねぇ。儀式もしないで悪魔を呼び出すって」
「感心して言うことですか?」
「何を怒ってるのかしらぁ」
すんなりと刹那にかわされる。
「確かに考えたのは凄いと思いますけど許せないですよ」
「熱いわねぇ……」
刹那はふぅとため息をつく。
「対策は考えているのかしらぁ?」
「考えてます。ただ協力者がわからないとどうしようもない。それに……。それに悪魔の企みがわかりましたから」
「企み?どんなことするのかしらぁ?」
刹那は表情を変えずに言った。
しかし、どこか楽しんでいるように見える。
昨日、下級の悪魔が言ったこと。
『この街に地獄の門を開くこと』と。
それが悪魔達の狙い。
「地獄の門ねぇ。大変なことするわねぇ、悪魔達も……」
刹那は口角をあげニヤリと笑った。
「いつそれを実行するのかわかりません。でも止めないといけない」
「……………」
「だからいろいろと考えてそれに対応したいと思います」
「………………。結城も大変ねぇ。これが報われれば嬉しいけどねぇ」
そう言って刹那は煙管を口にし煙をはいた。
紫煙はただ部屋の中に充満するだけでその場に留まる。
僕は刹那の目をみていてそれ以上、言葉がでなくなっていた。
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