第33話
────日曜日。
黒羽から携帯にラブコールもとい、モーニングコールがかかってきた。
黒羽の愛情表現である毒の入った話、ようは毒舌を聞かされた僕は完璧に目覚めた。黒羽との会話を終了し僕はメールを確認した。
柊からの連絡が一件入っていた。
開くと『午前中は時間ありますか?』との内容が書かれていた。
僕は直ぐに大丈夫と返信する。
数分後、柊からまたメールが帰ってくる。
『少しの時間だけ会えますか?』と返信があった。
僕は一応、大丈夫と送り、時間と場所を指定してもらう。
またすぐにメールは返信され、内容を確認する。
場所はファリス学園の近くにある公園。
時間は十一時頃。
時計をみると後約一時間。
僕は私服に着替え、家を後にした。
約一時間なら余裕で歩いていける。
約五十分ほどで着き、僕はベンチに座りジュースを飲んでいた。
柊はなんで僕を呼んだのだろうか?
彼女は僕を怨んではいないと言った。
それから心配しないでとも。
けれど彼女に悪いことをした気分だ。
心のどこかで柊を助けようと自分勝手な、独りよがりなことを考えていた。
どう彼女に接すればいいのだろう?
どう柊に話せばいい?
「ご免なさい。待ちました?」
考えの海に沈んでいると、聞き覚えのある、おどおどした声が聞こえた。
僕は顔を上げ、声を発した人物の顔を見る。
「あれ……?」
「どうしたんですか?結城さん……?」
一瞬、誰だか分からなくなった。
そこにいたのは確かに約束していた柊だったのだが様子が違った。
僕は口が開いたまま、柊をシゲシゲと眺めてしまった。
柊は猫のように首を軽く横に倒し、不思議そうな表情をしていた。
彼女の顔を忘れたからじゃない。
言い訳させて貰うと柊の格好が今までと違ったから。
目元を隠すように伸ばされた前髪は眉の上で切られ、シャギーが入っている。
肩胛骨の辺りまでにあった後ろ髪は肩口で止まり、毛先が軽く両脇に跳ねていた。
服も全体的に明るい感じで爽やかに見える。
今までの少しおどおどした感じはあるが明らかに変わった。
一言でいうなら可愛いだ。
「どうしたの?結城さん、変な顔してるよ?」
「えっ……、あぁ、大丈夫。柊か…」
「そうだよ。私だよ……?」
柊はまだ不思議そうな表情をしていた。
「悪い、一瞬、分からなかった。つい、その…、いつもと違うから…」
「……?私、変じゃないかな?」
柊は不安そうに顔をふせ上目遣いで僕を見る。
「変……じゃないよ……」
「本当に…?」
「本当だよ」
僕は思わず、柊に見とれてしまった。
考えてみるば女性に対して免疫がないんだった。
「よかった……」
「で、でもなんでいきなり髪の毛を切ったんだ?」
「うん……。あのね、私ね……」
柊は少し躊躇うような感じで黙る。
しかし決意したように口を開いた。
「私ね、今の状況から逃げないことに決めた」
「……………」
「結城さんが他の人にも話してみろって言ってくれたでしょ。あのときすごい嬉しかったよ」
柊は悲しい表情をする。
「でも、私、人と話すのが苦手で悩んでいること誰にも言えなくて……。だから一昨日みたいになっちゃって……。でも一昨日のことを背負っていくって決めたし、元には戻れない。だけどこのまま痛い思いをするのも嫌……。だからこの状況を変えるために他の人にも相談してみようと思う」
「…………。そうか……」
本当に柊は強い子だなと思った。
「だからありがとう、結城さん。今まで助けてくれて」
「礼を言われるようなことはしてないよ」
「ううん、充分助けてもらったよ」
「そう……」
柊は公園から見える景色の向こうをみながら言った。
「だから決意として姿からかえてみたの。今日、それを結城さんに見てほしかったの」
柊は僕の目を見て言った。
僕はただ黙って彼女の話を聞いていた。
「これからあの三人に負けないように頑張る。後……」
「……?」
「一昨日、あんなことになっちゃったけど結城さん友達でいてくれる?」
「ああ」
僕は即答した。
「よかった」
柊は以前とは比べ物にならないくらいいい笑顔をしていた。
確かに助けることはできなかったかもしれない。
けれど彼女が変わるきっかけの一部となれたなら嬉しいと僕は思った。
誰も幸せにもならない。
逆に不幸にもならない。
ただあるのは始まりにしか過ぎない話。
そんなことを考えながら柊の話を聞いていた。
空を見上げると入道雲が顔を出していた。
もう六月は近いらしい。
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