第29話

中はカーテンが閉められ暗いがわずかに小さく少し狭い場所だとわかる。

柊が何か言っているのが廊下に響き、わかる。

僕は身を屈める。

柊は僕を追って二階に降りてきている。

足音が響き、近づいているのがわかる。

息を殺し柊が通りすぎるのを待つ。

一歩、また一歩と近づいてくる。

そして僕がいる、教室の前で止まった。

静寂が辺りをつつむ。

冷や汗が頬を伝う。

心臓の音がうるさく聞こえる。

思考が停止している。

僕は身を構え、柊が入ってくるのに準備をする。

しかし、また歩く足音が聞こえた。

どうやら柊はまた歩きだしたらしい。

ドアの前から遠ざかっていくのがわかる。

脱力しその場に座り込み、息を一つ吐く。

なぜ柊は悪魔を呼び出すことが出来た?

多分、完全に取り憑かれているわけじゃない筈だ。

どうやって彼女から悪魔を引き離すかが問題だな。

わき腹を触り、確認する。

血が出ていないことが感覚でわかる。

頭をフルに回転させ対策を考えていると教室の奥で何かが動く音がした。

音がした方向を見る。

暗闇でよくわからないが何かが動いている。

ゆっくりと近づく。

「ひっ!」声がした。

僕は暗闇に目を凝らした。

魔力が濃いためか悪魔が取りついていたときの残りカスのような能力で段々暗闇の中でもはっきり見えるようになってきている。

机が積み重ねられ、椅子がいくつかあるなかその下に隠れるように女の子が一人。

女の子は制服が乱れ、髪もボサボサに近い状態。

泣いていたのか、表情も暗い。

この子も柊と関係があるのだろうか?

刺激しないようそばまで近づく。

「あ、あんた、誰?」

女の子は身構える。

「大丈夫だ。僕はなにもしない」

「…………」

「とにかく静かにしてくれ」

僕はなるべく小声で話すよう努める。

女の子は頷く。

「あ、あんたはアイツの知り合いなの?」

アイツとは多分、柊のことだろう。

「一体、何があった?なんで柊はあんな風になってる?」

「わかんない。アイツ、突然、暴れだして」

「その前に何があった?」

女の子は躊躇う表情をしたが決めたように口を開いた。

「アイツを視聴覚室に呼び出してイタズラしてやろうとしたんだ。呼び出したまではよかったんだけどアイツ、抵抗して……」

どうやら視聴覚室に倒れていた女の子達とこの子が柊に対して一番、敵意をむき出しにしていたらしい。

「それでどうした?」

「それが私たち、気にくわなくてさーこがアイツを殴って……」

さーことはあの倒れていた内の一人だろう。

「それから……?」

女の子はどもる。

「柊はそんな簡単に人を傷つける子じゃない筈だ。傷つけるならそれなりの理由がある。それだけじゃないんだろ?」

女の子は口を開いた。

「私がハサミでアイツの髪を切ろうとした……」

「そしたら柊は突然、騒ぎだして、別人みたいになったってことか?」

女の子は答えない。

その無言がイエスとして受け取っていいみたいだ。

しかもそれが原因でハサミをもっていたのか。

しかし、話を聞いてる限りだと呼び出す為の儀式はしていないのか。

突然、なったってことはそれ以前、にしたのだろうか?

検討がつかない。

考えこんでいると袖を引っ張る感触がある。

「ねぇ、アンタ、アイツの知り合いなんでしょ?どうにかしてよ」

女の子はすがるように言った。

僕の腕にしがみつく。

「このままだとアイツに殺されちゃうよ!アイツをどうにかする方法知ってるんでしょ?助けてよ!」

僕はそれを聞いた瞬間、頭のスイッチが切り替わった。

「手を離せ」

「えっ……?」

「手を離せって言ったんだよ。確かに柊を止める方法を知ってるし彼女を止める。それは柊の為だからだ。キミらは傷つけられてもおかしくないことをしたんだ。自業自得だ。それに僕は君みたいに自分のことしか考えていない奴が大嫌いだ」

女の子は苦虫を潰したような顔をし黙る。

「とにかく僕は───」

そう言いかけたとき、後ろのドアがゆっくりと開いた。

「そこにいたんだ、結城さん」

柊は微笑みながら嬉しそうにいう。

僅かながら光が差し込む。

「あっ、有本さんもいたんだ」

柊は赤くなった瞳を隣の女の子に向ける。

「二人はお話し中だった?邪魔したかな?でも私は結城さんに用があるから坂本さんどいてくれないかなぁ」

「なんなの、アンタ!?」

有本と呼ばれた女の子は柊に向かって叫ぶ。

若干、声が震えている。

「何って、何が?とにかくそこどいてよ……。私は結城さんを殺さなくちゃいけないんだから」

柊は笑っている表情から喜怒哀楽を落としたような表情をし、無感情に言った。

次の瞬間、彼女はハサミを振り上げ、女の子に向かって襲いかかる。

「止めろ、柊!」

僕は女の子の前に飛び出る。

柊は止まることなく、ハサミを振り下ろす。

ブシュッという生々しい音がし、左肩に痛みがはしる。

「ぐぁぁぁっ!」

「あっ、結城さん」

柊が笑う。

左の肩にハサミが刺さっていた。

後ろを見ると女の子はその場で呆然としている。

少しは逃げる仕草をしてくれよと思ったが無理があるか。

出口は柊の後ろにある。

どうする?

「結城さん、逃げたって無理だよ。私、結城さんのこと好きなんだもん」「………………」

肩に刺さったハサミを抜きほうり投げる。

抜くときに、痛みが走るが、スグに消える。

「あははははははははははははははははははははは」

柊は紅く染まった瞳で此方を見ながら笑う。

顔が歪み、別人のような顔をする。

後ろで固まっている女の子の手を掴む。

「走るぞ」

「えっ?」

隙をみて僕は一気に駆け出す。

坂本と呼ばれた女の子は転けそうになりながら駆け出す。

二人、いっしょに柊の横を走り抜ける。成功し、教室の外に出ることができた。

そのまま、女の子の手を引きながら階段へ向かい、三階へと昇る。

まだ笑い声が聞こえ、僕と女の子が走る音が響く。

握った女の子の手は震えていた。

本当は助けるつもりもなかったが、柊の為、やむを得ない。

もし女の子を助けていなければ柊は容赦しないだろう。

そうすれば柊を犯罪者にしてしまう。

それだけは避けたいからだ。

三階の視聴覚室へと再び戻る。

「はっ、はっ…………」

息が少し切れたらしい。

女の子もまだ震えていた。

「なんなのアイツは……?いきなり襲いかかってきて……」

女の子は一人ごとのように呟いていた。

この子をずっとつれまわすわけにはいかないし、柊の姿を見られている。

柊も止めなければならない。

このまま放るわけにはいかない、どう対処すればいい?

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