第27話
柊は何かに巻き込まれた。
それだけは明確で他はまだわからない。
一つだけ気になったのは電話の向こう側から聞こえたノイズだ。
あのノイズは聞き覚えがある。
四月の出来事で黒羽からの電話の際に経験した記憶がある。
もし僕の推測が当たっているならこの事態は最悪の状況になっているのかもしれない。
四月の出来事、事件の元凶になったあの脅威。
黒羽が召喚した黄色い目の悪魔。
もしあの時と同じ状況なら黄色い目の悪魔とは違う別の何かが彼処にはいることになる。
考えすぎなのだろうか?
とにかく足を止めずただ走る。
柊の所についた時、体力が残っているだろうか?
しかし、今はそんなことを考えるより先に柊の所へたどり着くことが最優先だ。
───約十分後、ひたすら走り続け、ファリス女子学園へと向かう坂にまでたどり着く。
途中で何度か立ち止まり、苦しくなる呼吸を整えなんとかここまで来たが、この坂を駆け登り体力が残っているか不安だが。
けれ
どこんなことがこんな状態で考えられるということはまだ大丈夫。
僕は深く息を吸い込み、短距離走の選手のごとく走り出した。
この坂は止まらずに思いっきりかけあがれば五分もしないでつくはずだ。
僕は足を止めず走る。
けれどなんの為に走るのだろうか?
簡単だ。
柊の為だ。
けれど彼女はまだ出会ったばかりの女の子だ。
そこまでする義務はあるのか?
無いと言ったらない。
けれど上手く言えないが彼女を助けなければいけない気がする。
これが刹那の言う運命なのかもしれない。
その運命に従うことが僕の行動なのかもしれないけれど、僕はそれで納得しない。
黒羽を助けたとき僕は彼女に関わったこと、自分から関わったことは自分の考えだと思った。
それは責任だし、消せない罪だとしても後悔することは間違いだと感じたから。
確かに黒羽の件や、黄色い目の悪魔に関係あるかもしれないでも僕はそれを理由をしたくない。
人が、自分の友人が困っているのは見たくないから僕は動くのだ。
だから柊を。
───坂を駆け登っている途中、視界が反転し、いつの間にか、地面に寝転が
っていた。
なぜ……?
一秒ほど前の瞬間的な光景に記憶を走らせる。
意識すると身体、全身は痛くないが、至る節々に鈍く、熱い痛みが自分でもあることがわかる。
どうやら足がもつれ、そのまま宙返りするように前にこけた。
端からみたら意味のわからないことをしているように見えるだろう。
しかし周りには誰もおらず、辺りは静寂そのものだ。
気にせず、すぐに立ち上がる。
学生服が汚れてしまったがこんなとこで時間を無駄にはできない。
坂を駆け上ろうと進行方向に目をやったときだった。
僕の数メートル先、そんなに離れていない距離に一人の男がゆっくりと坂を下ってくるのがわかった。
僕は走りだそうとしていたのにいつの間にかその男の方向、正確には坂を下ってくる男をみていた。
何故かその男にみとれてしまった。
変な意味ではなく何か惹き付けられるような感じだった。
雰囲気とでもいうのか一言で表すなら″怪しい″が一番じゃないだろうか。
刹那も゛妖しい″雰囲気を持つが、目の前の男は怪しいだけではなく何処か、人間染みておらず不気味に思える。
けれど何か惹き付けられてしまう。
その男は僕と同じ、青南高校の学生服を着ており、学年を示すネクタイは青。どうやら同じ学年だが彼の顔には見覚えがない。
男の顔は一見すると女性に見えてしまうほどで中性的な顔立ちをしていた。
彫りが深く、唇はほんのりと朱色がかり、妖しく艶をだす。
切れ長で狐のような瞳。
歌舞伎の女形でもさせたら似合うと思う。
同年代とは思えない人物。
男は僕の横を通りすぎ坂を下っていく。
とにかく僕は意識を切り替えファリス女子学園へと続く道を駆け上がろうと足に力を込めたとき後ろから声がした。
「キミ──」と。
透き通るように凛としているが少し低い感じを覚えた。
僕はその声に反応し、後ろを振り向く。
男は下を指差しながら微笑んでいた。
「なんですか?」
「携帯、落ちてるよ」
「えっ…?」
「そこに落ちてる携帯、キミのじゃないのかい?」
僕は自分の足下を見る。
さっき、つまづいた時に落ちたのか僕の携帯があった。
慌てて拾う、僕。
「さっき転んだときに落ちたんじゃないかな」
男はゆっくりとした口調で言った。
みっ、見られてたのか…!
「教えてくれてありがとう」
恥ずかしさを隠しつつ、男に礼を言う。
「礼を言われるようなことはしてないさ」
演技かかった仕草で男はおどけた。
「引き留めて悪いけど、急がなくていいのかい?」
「あぁ、そうだった」
でもなんで急いでいるってわかったんだろう?
「なんでわかったのかって、顔をしてるね。誰だってこんな坂道で走っているの
をみたら一目瞭然だよ」
確かに。
「それに……」
男は途中で言葉を切り、頂上のファリス女子学園の方に視線を移す。
「まぁ、いいか…」
男は納得したように微笑を浮かべた。
その笑みはなんだか嫌な印象を受けた。
「キミも青南の学生だろ?」
「そうだけど?」
「近い内に会うことになるかもね」
男はそういうと背を向け歩き出した。
僕はファリス女子学園の方を見る。空が曇り、何かを暗示してい
るようにも見える。
「またね、結城くん」
後ろからで男がそう言ったのを聞いた。
なんで僕の名前を……?
その疑問を振り向き男に投げかけようとしたがいつの間にか男はいなくなっていた。今までいたのにも関わらず、男の痕跡は消えていた。
あの男は一体……?
空回りする思考を中断し、目的の場所へと向かい駆け出した。
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