第24話

────柊に対し敵意を露にし、実際に柊に危害を加えているのは三人。

クラスメイト、他何人かも加わっているみたいだが直接的に危害を加えることはないのだろう。

しかし、柊の置かれている状況はどうしたって大変な位置だ。

僕一人の力ではどうしようもない。

────「まだ、誰かを救おうと考えているのか、結城?」

師匠である高梨半蔵は涼しげな顔をして畳の上に倒れている僕を見下ろしながら言った。

運動した後だというのに汗一つかいておらず、今までの状況を知らない人に本を読んでいましたといっても通じそうだった。

木曜日の夜の十九時頃。

師匠の道場に立ち寄っていた。

柊のことに頭を悩ませていた僕は思考を切り換える為、稽古に励んでいた。

しかし、切り換えることが苦手な僕にとっては意味のないことなのだが。

「救おうとは考えていません。それに僕には誰かを救うことなんて出来ないです」

そう、誰かを助けるなんてこと僕にはできない。

だってあの事件を通して僕は自分自身の弱さを知った。

師匠がいなければ助けることもできなかったし自身すら助からなかった。

乱れていた呼吸は徐々に均等になりつつある。

「嘘だな」

師匠はきっぱりと言った。

「お前はあの時のことを後悔しているんだろ。二人一緒に助けようとして片方しか助けられなかったことを」

「…………」

「だからお前は自分の恋人を助けようとしたんだろう。結果的に助けることには成功した。しかし、お前自身は助からなかった。違うか?」

僕は何も言えないまま、身体を起こし師匠を見上げる。

確かに僕は彼女を守る為に自分を犠牲にした。

犠牲精神はないけれど結果は矛盾したものでしかない。

過ぎ去ったことは過ぎたことでしかない。

いちいち悩んでもしょうがないわけで。

「立ち上がれるか?」

「はい……」

僕は立ち上がる。

「もし誰かを救いたいと望むなら救おうとするな。救う、救われるかは自分次第。人は勝手に沈み、勝手に立ち上がる」

師匠は涼しげな顔でいう。

けれど目は僕に問いかけるような深く、優しい感じだった。

「今日の稽古はここまでにしよう。考えてばかりでは集中できないからな」

師匠はそのまま踵を返す。

「ありがとうございました」

僕は師匠に一礼し、小さく言った。

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