第22話
───夏に近づきつつあるからなのか、それとも歩いたことによるからなのかわからないけど、身体全体から汗が噴きでるように出た。
服が身体にくっつき気持ちが悪い。ファリス女子学園近くに行くための坂道を昇る。僕と反対に目的地であるファリス女子学園の生徒がまばらに坂を下っていく。やっぱり夏に近いから暑く感じるのかもな。
僕は汗かきではないため多少、運動しても汗はでない。
ただこんなにじめじめしていると汗は出る。
急な坂道は足に負担が掛かる。
グダグダ登っても疲れるだけか。
そう考えた僕は足を少し早める。
腕時計をみるとすでに時刻は五時半過ぎになっていた。
頂上のファリス女子学園前まで一気に登り、全身に軽い疲労感が出る。
「はぁ…」
ため息のようなため息でないものがでる。
それにしてもまだ空は明るい。
時刻は六時前。
ほとんど帰る生徒は見当たらない。
今の時間は部活に精を出す生徒ばかりだろう。
ファリス女子学園の周りには住宅が建ち並んでいるから私服で歩いている今なら不審に思われることもない。
僕はとりあえず地図を開きデビルスターを柊に渡した人物の行動を予測してみることにした。
御尊神社の一件から一週間は過ぎていないにも関わらず簡単に結界は壊された。
なにが目的なんだろうか?
結界を壊したけれど逆に壊した時の力を使おうとしている。
もしデビルスターが負のエネルギーを集める為の種だというなら学校中にも広まっているはずだし、この街にだって広がっているはず。
けど柊は学校の中で噂になってるとか言っていた記憶がない。
デビルスターを渡しているのは特定の人物だけなのだろうか?
しかし、なんで柊なのだろうか。
デビルスターを渡す為の理由が必要なのか?
もしこの地図の五芒星の通りにいくとしたら次は街で大きな公園か何もない更地にな
る。
脳は高速で思考を続けているが答えがでそうにない。
トボトボとファリス女子学園の外周の半分を歩ききったときだった。
ふと何気なく、住宅のある方を見る。
別に変わったことはない。
そう変わったことはない。
簡単に変わったことなど起きない。
日常の中に日常が潜むように。
しかし、この時だけは見逃さなかった。
僕が立っている場所から道路を挟んで向こう側。
家と家との間に植林された樹が何本か。
その青々と緑が繁る木の下。
そこに人物が立っていた。
うつむいてはいるがその人物の顔に見覚えがあった。
柊が立っていた。
ただ普通に何事もなく。
でも明らかに違っていたところがあった。
以前のように前髪で顔を隠すようなことをせず顔を出していた。
それに彼女の表情。
柊は泣いていた。
思わず、駆け出し道路を横切る。
彼女へと駆け寄る。
「柊!」
彼女の名前を呼ぶと顔を上げ此方をみる。
「あっ…、ゆ…、結城…さん」
今にも消えそうな声で言う。
顔を上げたせいか前髪が顔にかかり目が見えなくなる。
柊の近くにより彼女の顔を真正面から見る。
柊は少しうつ向く。
「どうしたんだ、柊?何で泣いてるんだ?」
「うっ…、うぅ…。うぇぇぇぇぇぇ…」
肩を上下に揺らし、泣き初め僕の服を両手で掴みその場にへたり込んだ。
「ひ、柊!?」
僕は状況が掴めず、狼狽える。
ここでは僕が冷静にならないとどうにもならない。
とにかく一呼吸起き、どうするか考えた。
ふと彼女を見ると制服が汚れていた。
なんだか訳ありという感じがした。
ふとモッチーが言っていたことを思いだした。
『その子は気をつけたほうがいいよ。これから厄介なことになりそうだし』と。
この先でどうなるかは分からないがやることは一つだ。
「柊」僕はしゃがみ、泣いている柊と同じくらいの高さに顔をもっていく。
「柊が話したくなければいいけど。もし話すことで君が楽になるなら話し聞くよ?」柊は顔を上げる。
前髪が目を隠しているが彼女が此方を見ているのが分かる。
柊はシャックリをしながら頷いた。
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