第20話

───「やっぱり、結城くんはドブに捨てるべきかしら」

黒羽はため息をつくような顔をして呟いた。

「ふざけんなよ、お前!自分の彼氏、ドブに捨てるとかいうなや!」

「じゃあ、生ゴミに分別したほうがいい?」

「確かに生だがゴミじゃない!」

モッチーのいる部室によったあと僕は黒羽を向かえに自分のクラスへと戻った。

クラス委員会は終わっていたらしく黒羽は机に座り、勉強していた。

多分、やることがなかったからだろう。

「で、暇人でニートな結城くん。情報は得られた?」

「余計な肩書きが多いぞ!」

黒羽は僕の突っ込みを無視し、涼しい顔。

「そんなに多くはないけどまぁ、有益ちゃ有益かもな」

「結城くんが情報を引き出せるなんて今日は嵐がくるのかしら?」

「僕だってそれくらいできるわ!」

本当に暴言が止まらないな。

「その柊…って女の子は中学生だったのよね」

「そうそう。友達になって下さいと言われたよ。断る理由もないしな」

「へぇ、結城くんに友達ね…」

黒羽は目線を下に落とし片方の口をあげ微笑んだ。

ただ微笑んでいるんだけれどなんともいえない複雑な表情に見えた。

「……」

僕はふと黒羽の手元に目をやる。

机には世界史の教科書と参考書が広げられていた。

「結城くん」

「ん?」

「結城くんってロリコンだったのね」

「ちょっと待て!話のどことどこを繋げばそうなる?」

「だって中学生の女の子と友達って言っていたじゃない」

「言ったけど年齢はそんなに離れてないだろ!」

「ムキになりすぎよ」

黒羽はニヤニヤしていた。

ふと頭によくわからない質問が浮かんだ。

「なぁ、黒羽?」

「何?」

「お前は嫉妬とかしないのか?」

「変な質問するのね」

「そうか?」

黒羽の表情がいつもの人を寄せ付けない無表情じゃなく柔らかい印象を持つような微笑になっていた。

「私だって人間だから嫉妬くらいするわよ。結城くんがどこで誰と何をしていたのか気になるし、他の女の子と喋っているのを想像すると嫌な気分になるわ。それに…」「それに…?」

「いいじゃない、なんだって」

「いいのか?」

「そんなこと結城くんが心配することじゃないわね」

「……。お前がそういうなら僕は気にしないが」

なんだろう、なんだかはぐらかされた気がした。

いや、はぐらかされたのか。

ただ黒羽の表情がいつもとは違っていて雰囲気も同様に感じた。

まるで一ヶ月前の出来事の際に見せてくれたような表情だった。

「黒羽」

「何?」

「帰るか?」

黒羽は、窓の外に視線を移し、呟いた。

「そうね…」

僕も窓の外に目をやる。

オレンジ色とダークブルー色の絵の具を混ぜたような十七時過ぎの空だった。

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