第19話

───「結城くん、モテモテじゃないか」

モッチーはいつもの片方の口角を上げる独特の薄ら笑いをしながら言った。

「モテモテじゃないですよ。僕には恋人がいますし」

「ツンちゃんのことだろう。知ってるかい、結城くん?モテたりするのは恋人ができてからの方が多いんだよ。恋人がいると私は幸せですって雰囲気を出すからね」

モッチーはクスクスと笑った。

柊と友達という関係になった次の日、モッチーのいる部室へと足を運んだ。

「しかし、結城くんがナンパをするなんて思わなかったな」

モッチーは意外そうにいう。

「見た目がチャラい人間に其を言われたくないですし、それにナンパじゃないですよ!」

「でも女の子と二人っきりなんてそうそうないでしょ。それに何も知らない純真無垢な年下の女の子と」

いやらしい笑顔を浮かべ僕に向かって言った。

「しょうがないじゃないですか!そうするしかなかったんですから!」

「まぁ、余談はともかく、結城くん大変そうだね。ツンちゃんといい、その柊って子のことも」

モッチーは気にせず話をし始めた。内心、はぐらかしたなと思ったが気にしないようにした。

「しょうがないですよ。結界を壊してる奴を見つけ出す為ですし」

「こりゃあ、ツンちゃんも大変だね」

「……?」

「そういえば結界についてのことなんだけどいいかな?」

「何かわかったんですか?」

「んー、こちらで結界の点となる場所を見て回ったんだけど全部、破壊されてたよ」「本当ですか!」

「結城くん、落ち着けよ。せっかちすぎる。結論からいえばどうやら犯人は結界を壊すことが目的じゃないみたいだよ」

「……?」

「この前は結界を壊せば何か、この街に異変が起きただろう」

「はい」

さんざん苦労したのを覚えているけど二度と御免だ。

「でも異変が何一つとして起きない。それはなぜか?」

「わからないですよ」

「一ヶ月以上まえの出来事の影響で結界が破壊したとき、変なことやらまがい

物の悪魔まで出てくる始末だっただろう」

「ええ」

「あれはこの街の負のエネルギーが暴発した結果なんだよ」

負のエネルギー?

「つまりさ、この街に住む人達が持つネガティブな感情が集まって大きな塊みたいなものになってるんだよね。街全体が大きな入れ物となっていて結界はそれを封じ込めるための蓋。最悪なことに容量がいっぱいだったんだ。タイミングがいいことにツンちゃんが悪魔を呼び出した。それで容量を超え、蓋が壊れた。後はわかるよね」「つまり、その負のエネルギーを餌に悪魔もどきが出たり変なことがおこったってことですか」

「ん~、そうそう」

モッチーはいつものように妖しげな笑みを見せる。

「でも結界が壊されたのになんでその異変が起きないんです?」

モッチーは自分の顎に指先を当てる。

「僕の推測だから確実とは言えないけれど犯人は負のエネルギーが別の形で溜まるように行動してるからじゃないかな」

「別の形で?」

「そうそう。たとえばさ、結城くんはバケツに入っている水を別のところで使いたい場合、使いたい分の容量を違う入れ物に移して使うだろ?それと同じことさ」

「まぁ、確かに…」

「後、未完成のデビルスターだっけ?それは負のエネルギーを集めるための種みたいなものじゃないかな」

頭がこんがらがってきた。

モッチーは一息つくと立ち上がり、部室に置いてある冷蔵庫を開ける。

「コーラ飲む?」

「遠慮しときます」

「そうかい」

冷蔵庫から冠のコーラを一つ取りだし、蓋を開ける。

プッシュという炭酸の抜ける音がした。モッチーはコーラを飲む。

「まぁ、僕としてはあの不思議な店の女主人に聞いた話だからなんとも言えないんだけどね。オカルトなんてものはめんどうなだけだよ」

モッチーの話を聞く限り、犯人はどうやらすぐにアクションを起こそうとは考えていないみたいだ。

まるで何かの機会を待っているようにも思える。

ただ結界が壊されている以上、見つけ出す為の証拠はデビルスターだけか…。

「それにしてもその犯人の特徴が面白いね。女の子だっていうのに男用の学生服を来てるなんて。男装家なのかな?」

「確かに変ですよね。でも話を聞いてもこれと言った情報ではないんですよね」

「探しだすには大変だね」

モッチーはやれやれといった顔をし、コーラを飲んだ。ふと僕は携帯を見る。

画面にはメールの着信を知らせる文字が出ていた。

発信者は柊だった。四時過ぎに送信したみたいだがまったく気付かなかった。

メールを開き、内容を見る。

書いてあったのはまた僕に対しての質問だった。

「柊ちゃんからメールかい?」

「そうです」

「大変だねぇ」

モッチーはニヤニヤしながら覗きこむように見ていた。

「まぁ、友達がいないみたいですし、メールを送る相手が嬉しいんじゃないですかね」

「いやいや、僕が言いたいのはそういう意味じゃないんだよね」

「……?」

「その子は気を付けたほうがいいよ。これから厄介になるだろうし」

そう言って彼はコーラを一口、啜った。

僕はモッチーが何を意味する事を言ったのかよくわからなかった。

ただ彼の笑顔が少しだけ不気味に見えた。

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