第17話
次の日、つまり今。僕はかなり場違いな所にいた。
ファリス女子学園の校門前。
ホームページにも書いているように綺麗で真新しい校舎。
なんだか清楚なイメージを通りこして聖なるものしか受け付けない教会のように見え、近よりがたい雰囲気を感じさせる。
僕は悪魔の残りカスみたいなのがあるからこれは皮肉みたいなものだろうか?
それにしてもこう男一人で女子しかいない学校の前に立っていると不審者に見えないだろうか?
生徒が通るたびに僕を一度見る。
珍しいのだろうか。
そんなことを考えていたとき、ファリス女子学園のチャイムが鳴った。
とっくに下校時間は過ぎているが待ち合わせをしているから帰ったとは考えにくい。約束の時間より少し僕が遅くなってしまったが。
「すみません…」ん……?どこからか声がしたぞ。
「すみません」また声がした。辺りを見回すが僕の視界には誰もいない。
可笑しいな。
人の声がしたはずなんだが。
「あの…、すいません」すると小さな声とともに背中のあたりに微弱だけど引っ張られるような感触がした。
ふと後ろを振り返る。
そこには───柊稔が立っていた。
───「もしもし」携帯電話の向こうから聞こえてきたのは小さく、か細くて何かに怯えるような声だった。
「えーと、柊稔さんでいいのかな?」
「は、はい。ど…、どなた…ですか?」警戒してるのが微妙に震える声から分かる。僕は柊に手帳を拾ったこと、細かいことをつげた。
「わ…、わかりました」
「とりあえず明日の放課後、僕はファリス女子学園の校門の前にいるから」
「あ…りがとうございます…」
「じゃあ」僕はそういって電話を切った。これは昨日の出来事。
───「えっと、あの…、あの…」
「結城でいいよ」僕のことをどう呼ぼうかと迷っていたみたいなので適当に促した。柊を全体的に見てみる。神社でみた時は制服は少し汚れ、暗かったから顔がよく見えなかった。改めて見てみるとやはり違うのがわかる。前髪で目元が隠れている為か暗い印象を受けるが髪型とか変えたら全然違うように見えるんだろうな。多分、化粧とかおしゃれしたら可愛くなるタイプだろう。
「柊稔さんだよね。合ってる?」
「は、はい…」
柊はびくびくしながら返事をする。僕のことを疑っているんだろうか?
「怪しい奴じゃないから…、って言っても無理だよな。とにかくこれ」
僕は鞄の中から手帳を取りだし柊に差し出す。
「あ…、ありがとうございます…」
「電話をかけるためにプロフィールの欄を見たけどそれ以外は見てないから」
「はい…」
さっきからはいとありがとうしか言わないな。
悪態をついたりしないし、ちゃんとお礼もいうしいい子なんだろう。
ただ確かに知らない年上の奴と二人っきりっていうのも恐縮しちまうよな。
「後、聞きたいことが君にあるんだけどいいかな?」
「なんですか?」
「とりあえず、ここで立ち話っていうのはなんだから坂の途中の公園で話そうか」
僕と柊は公園へと向かう。柊と並んで坂を下る。
隣で歩く柊はなんだかぎこちない動き方をしている。
僕を見ようとはせず、ずっと下を向いたままだった。
しかし、この子に悪魔とか魔法とか頭が可笑しいと思われることを言っても大丈夫だろうか?
とにかく話を聞いてみなければわからない。
公園はファリス女子学園に向かう坂の途中にある。
ファリスは山の上に建設されていてこの街を見渡せるくらいの高さにある。
だから坂が急なので、一度休めるように規模の小さな公園があった。
僕らは公園につくと隣同士になるようにベンチに座る。
「……」
「……」
僕は柊に話そうとするが緊張してしまう。
手汗が尋常じゃないくらいでてる。
まさに人見知り!
さっきは普通に喋ていたが喉がカラカラになってしまった。
しかし、ここで躊躇っているわけにもいかないと思い柊に目をやる。
柊は顔をふせ、じっと座っていた。
スカートを握る手に力が入っていたのに気づく。
僕は一息、はき立ち上がる。
柊がそれにびっくりしていたが気にしない。
僕は公園の入り口にある自動販売機へと走る。
女の子が何飲むかなんてわからず定番のオレンジジュースとリンゴジュースのボタンを押す。
二つ、缶が取りだし口に落ちる。
黒羽はなんの飲み物が好きとか言わないからな…。それを持ちベンチへと戻る。柊は目元が隠れている
為、視線がどこへ向いているかわからないが、ぽかんと口を開けたまま見ていた
。「どっちか選んでいいよ」「え…?」「君の好きなほうを選んで。女の子がど
んなの選ぶのかわからないから定番物だけど」「あ…りがとうございます…」そ
う言って柊が手にしたのはオレンジジュースの方。僕はリンゴジュースの方だ。
六月に近づき、日が落ちるのが遅くなったのか辺りはオレンジ色に染まる。冠の
口を開け、一口飲む。緊張で渇いていた喉が潤される。「あの…、話って…なんですか…?」「ん、ああ…」そうだ、ウダウダ考えてもしょうがない。オブチミストでいようと誓ったんだ。「柊…ちゃんでいいかな?」まずは呼び方を統一しなければ。柊に面と向かって聞いてみる。目は見えないが、目を見るようにする。「え…、あ…、ひ、柊でいい…です」柊はなんだか照れているのかわからないような反応をする。「わかった。柊、あの時神社にいたよね?」「は…、はい、居ました」「別にそこで何をしてたかは聞かないけ
ど柊が持っていた物について聞きたいんだ」「……?」柊は首を傾げる。僕はポ
ケットから魔法陣が書かれた紙をとりだす。彼女が持っていた物のコピーだが説
明には必要だろう。「これに見覚えがないか?」「……。あります…」「この紙
は誰から貰ったか聞きたいんだ」「……」柊は黙る。「別に無理に話さなくてい
いよ。柊が知ってることだけを教えて欲しいんだ。「その紙は…、知らない…女
の人から貰いました」「女?」「はい…。学校の帰り道に突然、声を掛けられた
んです。それで『キミは困っていないかい?』って。でも何も答えませんでした
」そいつがデビルスターを作ったってことか。しかし、なんでこんな物を渡す必要があったんだ?柊だけじゃなくて他にも渡された奴がいるってことになる。「それは何日前から覚えてるか?」一週間くらい前かな…?」「そうか…。声を掛けてきた女の特徴を覚えてたら教えて欲しい」「……。顔はどんなだったか思いだせません…。ごめんなさい…」「謝らなくていいよ。なんかパッと見で特徴があったらでいいんだ」「……。女の人なのに男子の学生服をきてました」「学生服?」「結城さんと同じ学生服でした」学校にそん
な奴がいたら話題になるはずだが覚えがない。しかしよくわからない奴だな。「
ありがとう、柊。助かった」「い、いえ…」柊は恐縮したように言う。「あ、あ
の…、こ…、この紙に何が、あるんですか?」柊は僅かに聞き取れる程の小さな
声で言った。そう言われると困ってしまう。悪魔を呼び出す物とかお守りみたい
なものでとあれやこれやと説明しても信じて貰えるか。「説明しづらいな…。柊
は『コックリさん』って知ってる?」「確か…紙に文字を書いてコインを使う占
い…ですか?」「そうそう。考え方は『コックリさん』と一緒でおまじないみた
いなものって言ったら納得するかな。これに関係してることを調べててね。ちょうど柊が持ってたから聞いたんだ」「そうなんですか…」「でも、今日はありがとう。協力してくれて助かった」「いえ…、あの、結城さん」「ん……?」「あっ…、あの、この前はありがとうございました」柊は大げさと言っていいほど頭を下げた。「神社で寝てるところをお越してくれたの…」「別にかしこまらなくてもいいよ。びっくりさせた僕も悪いみたいだし、しょうがないさ」「は、はい…」「でも本当に助かったよ、ありがとう」「はい…」そう言って柊は笑ったような気がした。「そろそろ、辺りも暗くなるし帰えろうか」もう帰えらないと不味いか。僕は放任主義の親だから大丈夫だが柊がどうなのか心配だな。とりあえず、坂の下まで送らないと。「そうだ、柊」「なんですか…?」「どうでも
いいことだけど前髪で顔、隠さない方がいいよ」「えっ…?でも…」「隠してる
理由は聞かないし、柊がそれがいいっていうならいいけど前髪だしたほうが可愛
いく見えると思う。こんなの知らない奴が言うことじゃないよな」「……」柊は
下を向いて黙ってしまった。ふと彼女の手元を見ると手にはまだ僕が渡したオレ
ンジジュースが握られていた。うーん、なんか変なこと言ったかな?まぁ、年頃
の女の子だからしょうがないのかな。けど今後、会うことは無いかもしれないか
ら考えるのは意味ないか。ふたそんなことを考え歩きだそうとしたときだった。「あっ、あっ…、あの!」「……?」僕は柊の方に振り向く。彼女はさっきまでの手を叩いたらその音でかきけされてしまうほどの声とは違い、辺りに響くくらいの声を出しその声に少し驚いてしまった。「結城…さん!あの、その…」柊はうつむきスカートを両手で握り、もじもじしている。トイレにでもいきたいのだろうか?柊は他者と自分を隔てる門みたいな前髪を両手で横に流す。「わっ、私と…、私と友達になってください!」顔を上げ、大
声で叫んだ彼女はさっきまでと違って見えた──しかし、友達がいないというの
は辛い。共有するということができないからだ。ただ最後は誰でも独りになる。
確かに意識っていう物と自分が見ている物は誰とも分かち合うことはできないな
。そう考えると最初から独りの方がいいのではないだろか?ペシミストみたいな
言いぐさだし、思っていることが変に矛盾している気がするけど。そんなことを
考え自宅のベッドで横になっている。時刻は二十二時過ぎ。柊と会話したのはほ
んの数時間前だ。
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