第15話
────神社での一件から二日がたった頃、僕は頭を抱えていた。
モッチーにもらった情報では結界が破壊されているという話だった。
しかしその結界が壊されているのかどうかすらわからず、黒羽が暴走した原因もよくわからなかった。
そのためずっとそればかりを考えていたのだが答えは出なかった。
それだけなら僕は頭を抱えない。
謎がとけない為、僕は苦手な人物に協力を頼もうかと迷っていた。
しかもその人物が住む建物の前で。
ここは街の中心にいちする商店街。
僕が住む街に巨大なショッピングモールという都会を感じさせるものもなく、いくつかの店が立ち並ぶという中途半端な所だ。
それにも関わらず人通りが多い。
そんなところに僕が入るか入らないかと迷っている目的の店がある。
店の名は黒闇堂(こくあんどう)。
いかにも怪しげな名前だ。
しかし怪しいのは名前だけでなく、店の外見も同じで辺りはコンクリートやら近代的な建物が並ぶなか一軒だけ木造建てだ。
黒闇堂がある場所だけが風景が切り取られたかのように違和感を覚える。
「どうしようか……」
僕はポツリとつぶやく。
ここで逃げたらチキンだな。
どんだけ僕ってビビりなんだ?
一回深呼吸をし、覚悟を決め僕は黒闇堂の扉を開いた。
中に入ると薄暗く夕方だというのに明かりがついていない状態だった。
黒闇堂は骨董屋とでもいうのか壺や皿など西洋、和と関係なく古書なんかも売っていた。
アンティークショップと言ったら聞こえはいいが今にも潰れそうなほどボロい。
店内は狭くちょっと歩いただけで何かにぶつかってしまうくらいだった。
入り口から見えるカウンターには目的の人物がいないみたいだ。
僕は店内をみてまわろうと方向を変える。
「私にようがあるんじゃないのかしらぁ?」
そのとき店の奥から鼻ぬけ声と言ったらいいのかゆっくりと喋っているともとれる独特のアクセントをきかせた声が聞こえた。
僕はその方向を見る。
今、いなかったはずなのに彼女は昔からそこにいたかのような感じを醸し出していた。
「久しぶりねぇ、邪の子」
彼女はキセルで一息吸い煙をはくと口元にニヤリと笑った。
彼女の名前は忌野刹那。
黒闇堂の主人であり、甘い物が大好きな年齢不詳の女性だ。
彼女も一ヶ月前の出来事の協力者であり黒羽と同じ魔女でもある。
何か困ると必ずここに聞きにくる。
「久しぶりって言っても一週間ぐらいしかたってないですよ」
「そうかしら?どうでもいいわぁ」
刹那は興味なさそうにアクビをする。
「それに邪の子なんてあだ名やめてくださいよ」
「いいじゃない。本当のことなんだから」
刹那はまたニヤリとする。
僕はときどき思うのだが刹那は紫と例えればいいのか妖しい雰囲気がする。
単純に言ったらエロいのかもしれない。
それより妖艶のほうがしっくりくるかもしれない。
「で今日は暗闇を抱えた子はこないみたいね」
暗闇……?
「あぁ……、黒羽のことですか。あいつなら学校の用事できませんよ」
「そうなの、つまらないわね」
わざとらしく両手をひらき肩をすくめる。
「で、今日はなんのようかしら?」
彼女はキセルをまた一服すると僕に問いかける。
「やめてくださいよ。実際、相談内容がわかってるんでしょう?」
「人の話は聞く前からわかるわけないじゃないのよぅ」
ニヤニヤしながら刹那はいう。
嘘つけと僕は心の中で毒づいた。
彼女には他人の過去、未来を見透す力を持っているらしく、話さなくても大体の説明したいことは事前に把握してくれるのだ。
細かいところはわからないって言っていたが。
それなのに彼女は人の口から話を聞きたがる。
僕が思うにモッチーより関わりづらい人なのだ。
「さぁ、話してみてぇ」
なくなく僕は神社での出来事と悩んでいることを話した。
───「そんなことがあったのねぇ」
刹那は驚いてもいないのに驚いたふりをした。
「よくわからないことだらけで困ってるんですよ」
「それでここにきたわけね」
辺りには煙たくなるほどキセルの煙が充満していた。
僕は手を左右、意味もなくを仰いだ。
「その五芒星がかかれた紙はあるのかしらぁ?」
「持ってきましたよ」
僕はポケットから四つ折りにした紙をとりだし、刹那に渡す。
彼女は紙を手にとるとそれを開き、しげしげと食い入るように見始めた
「これが黒羽が変になった理由だと思うんですけどどうですか?」
「………………」
刹那はなにも言わず見続ける。
自分の中ではなんとなくこれが原因だと考えてはいるが確証を得るためここに来たのだ。
三十秒ほどし刹那は口を開いた。
「わからないわ」
刹那は投げ出すようにいうとそのまま紙を僕に手渡した。
「わからないってどういう……」
「言葉の通りよぉ、さっぱり私にもよくわからないわぁ」
「聞きにきた意味がないじゃないですか!」
「そうねぇ。仕方ないんじゃなぁい」
刹那は気の抜けた興味がないような顔をしていった。
僕はちょっとイラッときた。
この人はわかっているのにわからないというから厄介なのだ。
あまのじゃくもいいところだ。
「けれど気付いたところはあったわぁ」
「それを教えてくださいよ!」
「そんなに焦ったらダメよ~。ゆっくりいかなきゃ、ゆっくり」
本当にこの人は関わりにくい。
「そんなにイライラしないのぉ。冗談よ、冗談」
刹那はクスクス笑う。
黒羽が成長して精神的にも落ち着いたらこんな感じになるんだろうなとふと思った。「前振りはここまでにしてちゃんとしたことを言うわ」
「なら最初から真面目にやってくださいよ!」
刹那は知らん顔して喋りだした。
「まず聞くけど今回、結界のことをあの変人からきいたんでしょぉう?」
変人とは多分、モッチーのことだろう。
「そうですけど。結界を壊してる奴がいるって……。でも確かな情報じゃないからってことで調べることになったんです。」
「余計なことに手ぇだしすぎよ。やっぱり変人ねぇ……」
刹那はニヤニヤしながら言った。
「とりあえず今回の情報は確かと言えるわね」
刹那が宣告したことにショックはうけないけれど面倒なことに首を突っ込んだことは今はっきりと理解した。
「この五芒星が書かれた紙は確かに結城が考えた通り、本物。だけど失敗しているものよぉ」
「失敗してるってどういうことですか?」
「本来なら五芒星を囲むように円を書かなければならないのよ。けれどこの紙には五芒星のみしか書かれてないでしょう」
「ええ、確かに……」
「円は悪魔を呼び出すにせよ、自分を守る為の魔除け、どちらにも必要不可欠なの。五芒星は契約であって円は使用者と契約を繋ぐ仲立ちと言ったらいいのかしらね。その繋ぐものがないということはこれは魔方陣として成り立っていないのよ。つまり未完成同然。当然だけど、使ったとしても余り意味を為すものとはいえないわぁ」
刹那はキセルの灰を近くの灰皿に捨てた。
「でも、これくらいのものなら魔力に敏感なあの子だったらおかしくなるのも当然よねぇ」
「でも不思議に思うことがあるんですけど?」
僕は刹那の説明に口を挟む。
「なぁに?」
「魔力を持つ物なら僕にも気付きます。でも僕が手にした時は何も感じませんでしたよ?」
「あぁ、それはね。君が触ったからよぉ」
僕が触ったから……?
「どういうことですか?僕には魔法は使えませんよ」
「これは未完成だけど一つ変な点があって、発動させる為には悪魔の存在が必要なのよねぇ」
「……?」
刹那の言葉に混乱する僕。
「悪魔の存在って?あの神社には悪魔なんて……」
「あらぁ?忘れちゃったのぉ?君自身が悪魔に近い存在ということを?」
「…………!」
よく僕は自分のことをゾンビというように心がけているが、すっかり忘れていたけれど僕は一ヶ月前の出来事で悪魔の能力を完全ではないにしろ持っているんだった。
使い魔というのもそれに近い。
僕はため息を一つ吐いた。「驚いたかしらぁ?」刹那はニヤニヤしながらこっちを見ていた。
「ゾンビ、ゾンビって言ってて忘れたのぉ?」
僕はぐうの音もでなかったが、引き下がらず反論した。
「驚くも何も発動させた原因が僕ってことに信じられないんですよ」
確かに僕は悪魔と同化したのは事実だけど黒羽に撃たれた時、僕が死に同化した悪魔は居なくなった。
その後僕は黒羽によってすぐ蘇ることができた。
その時に後遺症のような形として悪魔が持っていた特殊な力が僕の体の中に残ったらしい。
それが不死身の力だ。
多分、五芒星はそれに反応したということだ。
まったく意味がわからない。
「落ち込まなくていいわよ。これは起こるべくして起こったわけだし、結城には非はないわぁ。この件に関してはは仕組まれたことみたいだしぃ」
「仕組まれたことってどういう……?」
「言葉の通りよぉ。正体不明の何者かが結城達を操って、馬鹿げたことをしようとしてるみたいねぇ。結城はまんまと知らない奴の手駒にされたってわけ」
刹那はいつの間にか煙管に新しい刻んだ煙草をいれ、吸っていた。
「んな、アホな……」
「それに今回、あなたたちが調べに足を運んだ場所だけど結界をつくるための力がもうなかった、なかったというよりは結城達がくる前に壊されたと言ったほうが適切かしらぁ?」
刹那は僕に向かって紫煙を吐く。モワッと生温い暖かさと匂いに僕はむせ眉間に皺を寄せる。
「だから何も感じられなかったということか……」それなら納得することができる。「そういうことになるわねぇ」
「でも誰がこんなことをしたんです?結界を壊して尚且つ僕らを操って何しようっていうんですか?」
一番、聞きたいことを僕は聞いてみた。
すると刹那は足を組み煙管を口に加え、一息吸う。そして紫煙を吐き出し、口を開いた。
「その前に対価は?」
「はぁ?」
「対価よぉ。忘れたのぉ、この前の件で協力した分。相手に何かを求めたら必ず同じ重さの何かを支払わなきゃだめよぉ」
「ちゃんと覚えてますよ」刹那にはよく力を借りるのだがそのさいにはいつも見返りとしてスイーツか何かしらの食べ物をお金の変わりに渡している。単純にいえば等価交換。ハガレンで知った言葉だから適当に使っているが。それはいいとして刹那曰く僕は特別料金らしい。僕の他に客がいるのを見たことないが。
「それいつもいいますけどハガレンの真似ですか?」ちょっと気になり聞いてみた。
「ハガレン?何かしら、それ?」刹那はその単語で不思議な顔をする。そうか、この人は菓子、食べ物以外、俗世間に薄いんだった。
「なんでもないです……」このネタを振ったのが僕の間違いだった。すこし、自重しよう。「対価ですよね。これ」僕は手に持っていた箱を渡す。
「駅前のビルにある国分屋のショートケーキとエクレアです。三十分近く並んでようやく買えましたよ」
「やったぁ!有りがたいわ。国分屋のケーキ、食べたいと思っていたのよねぇ」
刹那は子供のように嬉しがる。
「時間が少したってしまいましたけどドライアイス入ってるから大丈夫だと思います。もし──」
「国分屋のケーキかぁ、本当にいいわねぇ」刹那は僕の話を聞いてなかった。いつのまにか手に持っていたはずの煙管は消えていた。箱からショートケーキを出してどこからだしたのかわからないフォークを使い食べていた。
「んっ~。やっぱり、そこら辺のケーキとは違うわぁ。エクレアもあるのよねぇ、どうしよう?」パクパクと刹那は食べているがショートケーキとエクレア、ひとつずつの値段は安くはないだろう。しかし対価としては刹那が教えてくれた情報の値段よりは当たり前だけど安いだろう。まぁ、今回は事がよくわからないから見返りは多くなるだろうな。僕は続きを聞こうとし口を開く前に刹那は言った。
「今回、報酬はいらないわぁ」
「えっ?」「聞こえなかったかしらぁ?今回、報酬を払わなくていいわよぉ」刹那はエクレアを手にとり言った。僕はちょっと戸惑う。
「いいんですか?」
「いいわよぉ。ただしぃ……今回、教えられるのはここまでということでよろしくね」「え!?なんで?」「言ったじゃない。全てはわからないって。それにこの先を教えてしまったら意味がないものぉ」「そう言うってことはわかってるじゃないですか!教えてくれてもいいじゃないですか!」
「教えても運命は変わらない。未来で起こることは変えることが出来ても過去は変えられない」
「………?」刹那はしゃべり出した。刹那の言っていることがよくわからない。理解が追い付かない。
「これから起こることは困難であって彼女は選択を迫られる。そして迷える彼にはもう一度苦痛が待っている。けれど決して物語は終わらない。また彼には新たな世界が開ける……。そして…」
「……?」
「という感じだからぁ、教えられないのぉ」僕はずっこけた。
刹那にさっきから聞いてばかりで疑問文ばかりだ。「ここにきた意味ないじゃないですか」「あったじゃない。事件が起きた場所が結界を作っているのか知りたかったのでしょお。それにこれが何なのかも教えたじゃない?」
「それはそうですけどなんで核心を教えてくれないんですか?」
「なら今回の報酬を請求しようかしら?せっかく無料にしたのに」
「払いますよ」
「本当に払えるかしら?」「馬鹿にしてませんか。その報酬は一体なんです?」刹那は笑みを消して口にした。「それはね……、結城の魂」
「そんなの払えませんよ」
「だから聞いたじゃない払えるかって。それだけ今回の件は大きくなるのは確かだし、危険が付きまとう。一ヶ月前の出来事が可愛く思えるくらいに。その分、対価が大きいのよ」僕は何て言えばいいのか分からなくなった。刹那が笑みを消すということ本当の証拠だ。それだけ僕は危険な状況に首を突っ込んでいるということなる。黒羽に関わることなら危険でも首を突っ込むことに決めたけれど、不安でしょうがないな……。
「だから教えられないのよぉ。ドウユー、アンダー、スタンド?」
「分かりました。今日はここで引きますよ。でも今度、教えてくださいよ」
「私に聞かなくてもその内、わかるわよぉ」そう刹那は言うとエクレアを口にした。
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