第14話

「結城。一体、何がしたいんだ?まったく何がしたいか見えない」

師匠は眼鏡についた埃を新品の手拭いで拭きながら坦々と抑揚もなく言った。なんど聞いてもコンピューターのように冷たい感覚を受ける。

「はっ、はっ、はぁ……。そうですか……?」

僕は床に仰向けで大の字の形で倒れ肩で息をしながら言った。

ここは師匠の家で道場。師匠の名前は高梨半蔵。

僕の武術の達人にして恩人だ。

ただこれは僕がそう思っていて師匠がどう僕のことを思っているかは知らない。

出会ったころに師匠と呼ぶと『師匠と呼ばないでくれないか。なんだか気持ちが悪い』と言っていたが最近では言わなくなった。

弟子と認めてくれたのだろうか?

まぁ、また何度も頼むだけだ。

僕が師匠に出会ったのは約二年前のことでその頃の僕には友達、友人とよべる人が誰もいなかったし少しやさぐれていた。

それは黒羽の存在を知ったころだったと思う。

高校生になり不思議でオカルトめいた事件に巻き込まれる前に僕は一度だけ事件に首を突っ込んだ。

そのときに助けてくれたのは師匠だった。

そんな師匠はなんの体術の使い手だか知らないがとてつもなく強い。

二十人を相手にして息一つあげず全員一瞬で倒していた。

まるで漫画の格闘家みたいだと思った。

「ああ。まったくどんなことをしたかったのかわからない」

師匠はそう呟くと眼鏡に一息かけまた磨く。

「それに不死身なのに身体能力と体力は元のままなんて不便だね」

師匠は息を切らして倒れている僕に言う。

「師匠が強すぎるんですよ」

僕は不満を言う。

「強すぎる?それは違うな……」

師匠は眼鏡を吹き終わったのか眼鏡を何度も動かし眼鏡に曇りがないか確認していた。

そして満足したのかわからないが眼鏡をかけため息をつくようにいった。

「結城が弱いんだよ。せっかく人類が夢見る不死身という夢のような力を手にいれたのにそれを半分も使いきれていない。それに不死に頼りすぎて技の詰めが甘い」

師匠は感情をこめない声で坦々というから普通に言われるより心にささる。

まだ黒羽のほうが可愛げがあるからいい。

「あと結城。恋人に脇腹を刺されたそうじゃないか」

「なんでその話を師匠が知ってるんですか!?」

僕はこの前の件で黒羽に刺されたことをあえて師匠に黙っていた。

「骨董屋の女主人に聞いたんだよ。聞いたというより聞かされたと言ったほうがいいかもな、一方的に」

師匠は表情こそ変わらないものの嫌そうな感じの雰囲気をだしていた。

「本当にお喋りな人だよ、あの人は。それはいいとして結城」

「はい?」

僕は立ち上がって息を整える。

「人がせっかく身を守る方法を教えてあげてるのにそれを使って自分の身を守れないなんておかしいよ」

師匠は淡々と言う。

「結城の心の中で何かしらの揺らぎがあるのかもしれないけど揺らぎすぎだよ。だから簡単に傷つくし自らを危険に追い込んでしまうんだよ。それにもし君の好きな人に何かあったら守ることができないよ」

師匠の言うことは当たっている。

僕はいつでも何かに揺らいでいる。

『結城君は強いんだね』

黒羽に昔、そんなことを言われた気がする。

けれどそれは間違っているだろう。

僕は薄くて弱い。

それが僕なのだ。

「まぁ、僕がこんなことを言ってもしょうがない。ついくせでやってしまったな……」

師匠はふぅとため息をついた。

「とにかく稽古を再開しようか」

「そうですね……」

師匠と僕は真正面で対峙し一礼をする。

そして一歩前でる。

師匠と僕は構え、師匠が動くより先に僕は最初の一撃目を繰り出した。

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