第10話

僕と黒羽が一ヶ月前の出来事で壊した別の結界を修復していたある日。僕らが修復していた結界は街を囲むように東西南北、四方に張られていて地図で結界のある場所を線で結ぶとひし形の形に見えた。その北側を修復しに行ったとき何の前触れもなく黒羽は暴れだした。酒に酔ったようにテンションが高くなり、攻撃してきた。

彼女の前では僕の不死性は無効で僕は瀕死の重症を負いながらもなんとか逃げ伸び、黒羽は一時間くらいで元通りになった。そのときには原因がよくわからなかった。

攻撃をしかけた本人、黒羽に聞いたのだが彼女が言うには魔力の影響が大きかったらしい。魔力は酸素と同じようにどこにでも存在しているらしく、魔女はそれを自由に操ることができる。そしてその濃さ、濃度といったほうがいいのか、場所によって変わるみたいだ。だからこそ結界を発生させる装置やら、呪術的ものなどを見つけるなどそれを明確にわかるからのことだとか。しかし魔力も濃度が高ければ高いほど黒羽、彼女自身にとっては悪影響になる。わからなかった原因もわかりなんとか次からは気を付けることにしていた。もう二度と彼女からドメスティックバイオレンスみたいなことは受けたくなかった。そのはずなのにこの状況になってしまった。

やっぱり僕は───────アホで鈍感なチキンハートだな。

考えてみれば原因はあるはずなんだ。黒羽がこんなになるということは結界を発生させる装置を壊す何かがある。今、この場所に。思考を止めない。神社に入ってきた時点から今までを早送りのように頭の中で記憶を再生させる。この場所にあってはいけないもの。

あれだ───。

そう────。

僕は苦しいのを我慢しポケットに手をいれ中身を取り出す。神社の裏手にいたあの女の子が持っていたもの。逆さまの五芒星。デビルスター。この場所が特異な場所だとしても黒羽をおかしくさせるほどの魔力を持ってない。もし僕の考えが正しければ原因はこれしかあげられない。本当に正しければ、黒羽の暴走は止まる筈だ。黒羽は僕を見つめながら首を絞め続ける。

「結城くん、好きだよ」黒羽は笑い続ける。

僕は焦る気持ちを押さえながらポケットから出したデビルスターが書かれた紙を見てみる。やっぱり……、僕の推測は正しかった。

線の部分だけが紫色に光っていた。馬鹿みたいな話だ。多分これを破いたところでなんの意味もないだろう。ポケットにもう一度素早くしまう。そして息が止まりそうな状況の中で刺された左のわき腹に左手を当てる。そしてぬるぬるとした新鮮な自分の血液の温かさがわかる。

「ぐっ………………!」こうしてる間に首がどんどん絞まる。血液のついた左の掌に空いた右手の人差し指でその面をなぞる。そして左の掌をそのまま黒羽の額に当てる。

『かぁん単じゃない。ただ掌に五芒星をかいて力を込めるだけよぉ』

鼻ぬけ声で言ってたのを思い出す。果たして上手くいくだろうか?あの骨董屋の主人は信用出来ないからな。でも今はやるしかない。この方法を信じよう。

「結城くん、結城くん」黒羽の表情はかわらない。わかってる、黒羽。お前はいつもキャラが確定してないんだ。ヤンデレなのか、ツンデレなのかもうわからない。こんな状態でいるべきじゃないんだ。

だから────。

だから───

「起きろよぉ、黒羽!」

僕は痛みとつらさをこらえておもいっきり叫んだ。喘ぐように、がむしゃらに。声が辺りにエコーしながら消えていくのと同時に僕の左の掌が青く光る。一瞬、眩しいほど強力な光を放つととすぐに消えた。

すると首元の苦しさがなくなり、肺に新鮮な空気が流れ込む。

「げっほっ!はぁぁ!」僕は馬乗りになっている黒羽の顔をのぞく。赤かった両目は元に戻っていた。突然彼女は全身の力が抜けたのか僕の上に倒れる。そして一言呟いた。「結城くんは……チキンね……」そういうとスイッチを切ったかのように気を失った。彼女の体温が伝わる。僕はわき腹を押さえ空を見る。

「うるせぇ……」星は変わらず明るく瞬き、辺りは静寂に包まれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る