第9話

彼女の髪はボサボサになっていて顔にかかり表情が読めない。「●●●……」彼女は虫が鳴くような声で何かを言っている。僕は耳をすませる。

「?」「結城くん……、私の結城くん……」

「……!?」なぜいきなりデレるような言葉を?そう思ったときだった。「あははは」黒羽は突然、笑いだした。

「おっ、おい……」

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」

彼女の笑い声が夜空にこだまする。髪の間から見える赤い瞳は僕をまっすぐ見ていた。

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」僕はなんだか恐ろしくなった。目の前にいるのは黒羽に間違いないのだけれどなぜか別の人に見えてしまう。黒羽は操られているのだろうか?でもこの感覚はどこかで感じた覚えがある。頭の片隅に一瞬何かが引っ掛かった。思い出せそうで思いだせない。一瞬、視界が揺らいだ。血を流し過ぎたらしい。早く解決しないとマズい状況だ。だんだん呼吸しづらくなってきたし、尚且つ傷の再生速度が落ちてる。

「黒羽、どうしたんだよ!?」下で押さえつけ彼女に僕は問いかける。しかし彼女は僕の問いかけに答えず、笑っている。

「一体、どうしたって言うんだ!?」僕は思わず叫んだ。そのとき視界がぐらつき、手に力が入らなくなる。そのせいで下で押さえつけていた黒羽が突然、起き上がり撥ね飛ばされる。「うわっ!?」そして起き上がった彼女はもの凄い速さで僕に馬乗りになり細い両手で首を絞めてくる。

「ぐっ!」黒羽に僕の首をへし折るような腕力はない。けれど彼女の腕を剥がそうとするが彼女の細い指と爪が首にフックのように食い込み、なかなか離れない。それに血を流し過ぎたせいか力が入らない。

「くろは……ね……!」

「何、結城くん?」

黒羽は微笑み、僕を見つめながら答える。彼女は僕の首を絞めているが普段と変わらないそんな表情だった。なぜこんなことになった?黒羽がなんでこんなになっているんだ?僕はこの状況を一度体験している筈だ!僕は思考を続け、解決策を考える。徐々に首に指が深く食い込む。

「かはっ……」

ギリギリと音がする。段々と苦しくて呼吸ができなくなっていき、体は寒くなる。それでも頭は数式でも解くように働く。特異的な場所、黒羽の行動の変化。今の状況を過去と照らし合わせる。そして頭の中で過去の記憶がモニターに映った映像を早送りしたような形で再生され思い出した。

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