第5話
「へぇ、そうだったの」黒羽のアイアンクローから解放され僕は遅れた理由をあますところなく隅々まで説明したつもりだが彼女の反応はこんな感じでまったく興味なしと言わんばかりの状態だった。
「説明したのにその反応だと少し傷つくぞ」
「こんなことくらいで傷つくなんて結城くんはガラスのハートかもしくはただのチキンハートなのかどっちかなのね」
「後者の方を強調するな!あえて前者にしてれ!」本当にひとついうと槍のように言葉が飛んでくる。今日は突っ込んでばかりだ。
「結城君が言いたいのは誰かがその結界を壊して何かしようと企んでいる。もしかしたら私たちにそれが関係あるのかもしれないって……ことかしら」
「まだ詳しいことはわからないけどそういう可能性もでてくるってモッチーは言ってたぜ」僕らは再び、歩きだし彼女は僕の横に並ぶ。
「そう……。結城くんはこのことについてどう思うの?」
黒羽は憂いを帯びたような顔をし、まっすぐ前をむきながら言った。
「そうだな……、情報が無いにも等しいからとりあえず調べてみようと思う。黒羽に関係があったら無視していられないしな」
「あら、私を心配してくれてるの?」
「さぁ、どうだろうね」僕はあえてはぐらかす。黒羽はフフと小さく笑う。
「素直じゃないのね……」そういうと彼女は自分の左手を僕の右手に絡ませる。
「悪かったね、生まれつきあまのじゃくなんでね。」黒羽は何も言わずに笑っていた。なんだか気恥ずかしくなり僕はさっきの話題のつづきを口にする。
「ま、まぁ、一ヶ月前みたいなことは起きないとは思うし、大丈夫」
「そうだといいわね」そういうと黒羽は黙った。当然、僕も人形のように固まり何も言葉にしない。こういうときは喋ったほうがいいのか喋らないほうがいいのかわからない。元々から明るくない僕の性格からして喋ることは得意じゃない。だから喋らないようにしている。彼女も同じなのかこういうとき黒羽も喋らなくなる。周りがどうなのかは知らないがベタベタした甘い関係ではないと僕は勝手に思っている。馴れてしまったのか自分でもよくわからないけれどお互い側にいるだけで安心というのだろうか、不必要な言葉はいらなくなる。それが一番、自然で気が楽だった。
「結城くん」
「ん?」
「……」
「……」
「……」黒羽は黙る。
「どうしたんだよ?」
「なんでもない」まさかのなんでもないの返答。僕は前のめりに少しつんのめった。
「何かあるのかとちょっと期待したぞ」
「フフ、冗談よ」黒羽は笑っていてそれを見て僕は少し気の抜けた息をはいた。「やっぱり結城くんは面白いわね」「普段はこんなキャラじゃないんだぜ」「いつも隣であなたの行動を見てる私に言っても説得力ないわよ。というより結城くんが思っているほど周りはあなたのキャラを気にしてないわよ」本当にリアルに傷つく。というよりもう僕の心はズタズタに引き裂かれた枕みたいになってる。
「なんだか僕が影の薄い奴みたいじゃないか」
「その通りじゃない?」
「なぁ、黒羽」
「何?」
「首つっていい?」タイタッニクのように暗い海の底に沈んだ僕は聞く。
「好きにすれば」
「なんて冷たい!」
黒羽は目をフーと息を吐くと言った。「だけど結城くん、今、不死でしょ。だから首を吊ってもただ首が痛くなるだけよ」
「……」肝心なことを度忘れしていた。僕はアンデッドだから自殺行為をしても意味がない。なんという浅はかさだ。「結城くんってやっぱり馬鹿よね」黒羽はポツリと言った。
「確かにそうかもしれないけど口に出すなんて非情すぎる!」
「自覚してたのね。偉いわ」
「そんなことで誉められたくない!」本当に黒羽の僕に対する毒舌、というよりももうただの悪口に振り回されっぱなしだな。
「いいじゃない。本当のことなんだから。結城くんはよく事実は認識するものだとかほざいてるじゃない」
ほざいてるって……、もうちょっと女の子らしい言い方ができないのだろうか?モッチーはツンデレというが黒羽はツンデレよりツンドンしていると言ったほうがあってると思う。「言ってるけど認めたくないもんもあるんだよ」
「いいじゃない、認めても。どうせへるもんじゃないんだし」
「そんな言い方されてもフォローになってない!」
「結城くんにフォローなんて必要ないじゃない」
「何?何だか僕が救いようのない奴みたいに聞こえるのは気のせいか?」
「やっぱり、自覚してるじゃない」黒羽は僕の心をズタズタに引き裂くだけでなく磨り潰そうとしているらしい。
「黒羽!僕を苛めて何が面白い!?」もうプライドとか捨てて半泣きの状態で訴える僕。「結城くんの反応。でも結城くんをこれだけ構う他人は私しかいないでしょ。それに……、私の想いをちゃんと受け止めてくれるのは結城くんだけ」黒羽はおふざけなしで言う。僕は虚をつかれたというかなんというか言葉が出なくなった。ここでデレてきますか……。本当にいつもわかりづらいんだよな。確かに一ヶ月前まで僕は友人や恋人などと呼べる人がいなかったわけでひとりぼっちと呼べばいいのだろうかわからない。そういう状態にいた。そして隣にいる彼女も同じ、いや彼女はそれ以上、僕と比べ物にならないくらいの感情を抱いていたはずだ。だからこそ一ヶ月前、ああいうことが起きた。彼女が願ったから、願ってしまったがゆえに。
「どうなんだろうな。僕はよくわからない」僕ははぐらかすように言う。
「やっぱり素直じゃないのね」黒羽は微笑む。
「悪い。そういう性格なんでね」
「結城くんのそういうとこ、嫌じゃないわ」黒羽は手を握ったまま僕に体を寄せた。
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