第4話
東門へ近づくといつもの見慣れた人物が立っていた。可愛いらしい顔ににあわずまっすぐ何かを見据えるように遠くをみる瞳。肩まで伸びた艶のある黒髪。黒羽柚香がたっていた。彼女は近づく僕を見ていた。彼女の側までよる。「ご、ごめん、遅くなった」僕は走ってきたせいで少しだけ息が切れていた。
「結城くん、何をそんなに息を切らして?興奮しているの?見るに耐えがたくはないけどちょっと気持ち悪いわよ」第一声がリアルに傷つくような言葉。
「興奮なんてしてない!今、走ってくるの見てただろ?」
「さぁ、なんのことかしら?」黒羽は右手を頬にあて目線を遠くにやる。
「しれっと私は見てませんみたいに言うのをやめろ。明らかにこっち見てたじゃねぇか!」「何を勘違いしているの?私は学校の中をみていただけよ。自意識過剰もいいところね」見下すように鼻で笑う。「嘘をいうにも無理がある!」
「どうかしら?たまたま学校の中をみていたら突然、結城くんが現れたのよ」
「人をロールプレイングゲームのモンスターみたいにいうんじゃねぇよ!」
「灰色結城Aが現れた」黒羽は表情を変えずにいう。
「Aってなんだ。Aって!?他に僕がいるのかよ!?」
「いるじゃない。同姓同名の人」
「たしかに。けど同姓同名の人に失礼じゃないか」
「だからあなたはAなのよ」黒羽はなんともないと言わんばかりにいう。僕がアルファベットの一番最初の文字で一文字ならこの世界にいる同姓同名の人は何文字必要になるのだろうか?
「まぁ、それはいいとしてこんなところで立ち話しないで帰ろうぜ」
「そうね。結城くんと話したところでお金にならないものね」
コイツは……。
「リアルに痛いことをいうな!本当にその内泣くぞ」
「あら、泣けばいいじゃない。男が好きな女の前で涙を流すなんて情緒的でいいじゃない」黒羽はダメだ、何を言っても何か言い返される。
「とりあえずいこうぜ!」僕はあえてそのまま話を切り上げ歩きだした。これ以上、何か言ってもエンドレスだろう。
「何?怒ってるの?」歩きだした僕に黒羽はニヤニヤと笑いながら僕の横に並ぶ。仕草が様になってるのが逆に怖く感じる。
「怒ってない」僕は簡潔に答える。黒羽は歩きながら僕の顔を覗きこむ。
「結城くんってそういうとこ可愛い」
「どこが?」
「喋っていて自分の手がつけられないことだとすぐに拗ねるとことか」
「拗ねてるわけじゃないよ……」
「本当かしら?」本当に黒羽のこういう攻めには弱い。元来、人と付き合うことが下手な僕に黒羽の質問攻めに対する耐性はない。もし黒羽が甘えた感じで何かお願いみたいなことをされたらまずいかもな……。
「ほ、本当だよ」
「そう。ところで……」
「ん?」僕は立ちどまる。
「なんで遅刻したのかしら?」黒羽は笑いながら雷のような速さで右手を伸ばし僕のこめかみと額をがしっと掴むとそのまま手に力をこめる。一瞬、何をされたかわからなかったがすぐにわかった。彼女はアイアンクローをしてきた。何故、アイアンクローをされなければならないのかわからない?黒羽の指は細いから力がないためか圧迫感が感じられないが質の悪いことに爪を立てているため爪が刺さり痛い。
「痛いぞ、黒羽!」
「当たり前じゃない。痛くしてるんだから」笑いながらいうことじゃない!「さぁ、結城くん。なんで遅れてきたのか話しなさい。もし女の子と喋ってたなんて言ってみなさい。別に結城くんが何していようとかまわないけど、これほどまでにないってくらい嫉妬してあげるわ。そして結城くんの不死身の体を再生できないくらいまで鞭で叩き続けてあげるわ」早口で淡々と言い放つとまた手に力が入る。
「お前はどんだけ僕を加虐するのが好きなんだ!?」僕はこめかみにはしる痛みをこらえながら言った。
「なんでだと思う?」
「自分の彼女から暴力振るわれるようなした覚えもないし、思い付かない!」
「本当に鈍いのね……。結城くんが好きだからよ」黒羽はため息をつくように言う。
「そう言ってくれるのは嬉しいんだがこの状態でいうのはどうかと思うぞ」アイアンクローをされながら愛の言葉を聞いてどう反応すればいいんだ?
「何?せっかく私がデレたのに不満があるの?」
「お前のデレるところがよくわからないしそんな不満うけつけられねえ!いいからアイアンクローをやめてくれ!」
「やめて欲しかったら理由をいうのね」
「わかった!言うから離せ!」
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