第3話

「ツンちゃんの調子はどうだい?」

茶色に染まった髪を少し整えながら僕の学校の先輩であり協力者の持田は言った。彼の名前は持田建人。ニックネームはモッチーで、なんだかミュージシャンにいそうな名前だがこれは僕がつけたあだ名だ。青南高校の三年A組に所属し見た目が必要以上にチャラい人で制服を着崩して校則を無視している。見た目はこんなだが学年の中でもトップの成績をほこる秀才で最初に会ったときは苦手なタイプだと思ったがあの事件で関わって以来、頼れる人だ。ただ突然現れ、突然、消えるという謎を持つ人である。ツンちゃんとは黒羽のことでいつもツンツンしているからだそうだ。

「元気ですよ。毎日、放課後に僕のハートがボロボロになるまで毒を吐いてきますよ」「へぇ、やっぱりツンデレちゃんなんだねぇ、柚香ちゃん。それはラブラブでいいことだよ」モッチーはカラカラと笑いながら僕を見る。

「そうなら嬉しいんですけどね……」

記憶を思いかえしてもそういう甘い状況があった試しがなく、苦笑いが浮かぶ。

「ラブラブじゃないか。それは恋人がいなくて泣いてる人に言ったら殺されるから気をつけたほうがいいよ。まぁ、ツンちゃんは結城くんに特別な思いを抱いているからね。だから毒をいっぱい吐くんだよ。思い返してご覧よ、今は結城くんという支えがいるけど一ヶ月前は彼女、一人だったんだろ。だからこそそういう行動をとるんだろ?」モッチーはニヤニヤしながらも目に鋭い何かを含ませながら言った。僕は頭の奥底にあった一ヶ月前の彼女の言葉を思い出す。

「そうっすね」

「何、感慨深げな顔をしてんだよ。そんな深く考えなくてもいいよ。僕が悪かったよ」モッチーはすこしおどけながら言う。

「いえ、別に気にしてませんよ。ただ……」

「ただ……?」

「黒羽は僕を選んでくれたじゃないですか。けど本当に僕でいいのかなって思って」

「どういうことだい?」モッチーは机に置いてあった缶をとりあの赤いラベルのコーラを一口含む。

「確かに嬉しいんです。だけど黒羽をまたアイツみたいなやつから護る為に僕で良かったのかどうか不安なんですよ。黒羽は僕を使い魔として選んでくれたけど僕には何も力がない。アイツを封印できたのだって彼女やあの人たちの力で、僕は何もできずにいや、邪魔してただけだった。本当にまた──いっ!?」

僕がモッチーのほうに顔をあげた瞬間、何かが鼻の辺りに当たった。僕はなにが起きたのかわからずモッチーをみて呆ける。

「結城くん、ビックリしたかい?」

「はい……?はぁ……」飛んできたのは輪ゴムだったらしい。多分、モッチーは人差し指に輪ゴムを引っかけて逆の手で引っ張って飛ばすやつをやったらしい。彼はイタズラ小僧のような笑みを浮かべながら僕を見る。

「結城くん、だから考えすぎだよ。そんな小難しいこと考えてるんだったらちょっとはツンちゃんを喜ばすこととかを考えようよ。ツンちゃんは結城くんがいるだけでいいんだからさ モッチーは口角をあげる。

「結城くんはツンちゃんと楽しく過ごせばいいんだよ」いかにも軽そうにそんなことどうでもいいじゃないかと言わんばかりの口調。

「それに結城くんがこの一ヶ月間で街を囲む結界を直したみたいだから多分、奴らもそうそうでてこれないと思うよ。さっき言ったことを忘れたかい?あんまり考えすぎるなって。結城くんは先の先、さらにその先まで考えられる頭があるかい?」僕は首を横に振る。

「じゃあ、考えすぎないほうがいいよ。どちらかといえば感じたほうがいいよ」まるで有名な映画スターの言葉みたいで僕は吹き出してしまった。

「あれ、おかしかったかな?」

彼はおどけたように言い、僕らはお互いに笑った。持田は厳しい面もあるがたとえ真剣な場面でも何かを和ませてくれるような人だった。だからこそあの時、僕はこの人に助けられた部分がある。

「そういえばなんで今日は珍しく教室にきたんです?」ここは一年の教室。

「ん?ああ。今日はね、ちょっと悪い知らせをしに来たんだ」

「悪いしらせ?」なんだか言い表せないような嫌な感じがした。

「そうそう。結城くん達が結界をなおしてくれたのはいいんだけど別の結界のほうが壊されてるみたいなんだ。僕はよく分からないけど優ちゃんいわく、奴以外の何かがまたとんでもないことを企んでいるみたいだよ。ただ確証のない情報だからね。この話がツンちゃんに関係あるかどうかさえまだわからないからね」

モッチーは軽く、そしてさらりと言った。まるで友達に挨拶でもするかのように。それを聞いた僕は気が遠くなった。結界、邪から一定の場所を防ぐためのもので五芒星とかが一番知られているんじゃなかっただろうか。僕は宗教関連とかよくわからないが知り合いに聞けば詳しく教えてくれる。それはいいとして結界と言っても目には見えない。何故、わかるかというとそれを発生させる装置となるものがあって見た目は周りのものと変わらないけれど黒羽はそれが普通に見えるといえばいいのかわからないがとにかく彼女はわかるらしい。僕は見えず感覚でそこにあるんだなとぼんやりと認識できるだけだが。結界を発生させる装置となるものは四つあり街を四角形になるように点在していた。黒羽との一件で結界を構成する装置が壊れかけ街に少し異変が起こった。それを食い止めるため僕と黒羽は動いた。それらを僕らは一ヶ月前の出来事から先週くらいまで修復するという作業をしていた。修復と聞くと聞こえはいいが物の位置を直したりと地味なこととそれになぜかそこに出現するまがい物を痛い思いをしながら退治したりもした。それがやっと終わったと思いきやまた別のものがあるとは骨が折れる。

「まぁ、それが黒羽に関係があるなら確かめるまでですよ」

とりあえずやるしかないという方向だ。

「はっ、結城くんらしいね」モッチーは笑う。

「そうですか?」僕は苦笑いしながら言う。

「うん。そういういさぎよいところ。で、とりあえずこれが結界のある場所を書いた地図」モッチーはこの街の地図を机の上にだす。すると赤いマーカーの小さな丸い点が街の地図上に五ヶ所バラバラにつけられていた。青南高校は街の西側にある。とすると全部、街の外れの方に点在しているみたいだった。「今回のことはこっちも調べるけど結城くんはどうする?」僕は五秒ほど考え口にした。

「とりあえず一番近くの場所に行ってみますよ」「そうかい」

モッチーは軽く頷く。ふと時計をみると針は五時三十五分を指していた。考えてみると約束の時間まで五分しかなかった。「すいません、途中ですけど先に失礼します。遅れたら、僕を殺しそうな感じがする人が待っているので」

僕は席を立ち上がり鞄に地図をしまう。「へぇ、これからデートかい?」

「デートじゃないですよ。一緒に帰るだけです」

「ふーん。やっぱり結城くんはツンちゃんとラブラブなんだね」モッチーはクククと笑った。

「だからそんなんじゃないですよ。それはそうとして今日はわざわざ、教室にきてもらってありがとうございます」僕はモッチーに一礼する。

「そんなかしこまらなくてもいいよ~」手をヒラヒラさせながらコーラの缶を持つ。「そういえば白石さんはどうですか?」

「優ちゃんかい?まぁ、いつもの通りだよ」

「そうですか」白石さんとは一ヶ月前の出来事のもう一人の協力者でよくモッチーと一緒にいる僕と同じ学年の青南生だ。僕は椅子を机の下にしまう。

「詳しいことはまた今度ね」

「分かりました。それではお先に」

「ん~」僕はモッチーに軽く頭をさげ一礼し教室をでる。向かうは人通りの少ない東門。そこで僕は黒羽と待ち合わせをしていた。黒羽は生徒会役員に入っておりときどき会議に出席していた。今日はちょうどその日らしく僕は黒羽と一緒に帰るため教室で時間を潰していたときモッチーが突然、現れ、話しこんだ。しかし、話しすぎてしまったから間に合うかわからないな。僕は下駄箱で素早く靴と上履きを履き替え、東門へとダッシュした。

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