第2話

――まず手始めに黒羽柚香との関係を話すとしよう。そうしなければ話は始まらない。彼女は公立青南高校に通う一年E組、出席番号九番、席は廊下側から二列目、後ろから数えて三番目。僕が彼女に出会った、出会ったというより知ったといったほうがいいだろう。中学二年生になったばかりの二年前の四月、彼女は僕が在校していた中学に転校生としてやってきた。僕は人の外見を上手く説明できないから抽象的になってしまうが芸能人やアイドルとかでいそうな可愛いらしい感じの外見。

だがその見た目に反して意外や性格がキツいなどの二年から三年生になるまでの一年間でそういった評判を聞くようになった。それにも関わらず彼女は人気があり二年生の大体の男子が噂していたのを覚えている。

あれだけ人に厳しいことを言うにも関わらず人を惹き付けるような雰囲気があったらしい。当時の僕としては興味がなくそういう転校生が来たのだなとだけで僕に関係なく彼女のことを知らないまま卒業して忘れていく。彼女もそうだ。

僕のことなどしらず忘れていく。それでいい。それが運命。

そう思っていた。しかし三年生の始めの頃僕は彼女と同じクラス、隣の席になった。まさかの。まさかの出来事だった。彼女と一緒になるとは思ってもみなかった。大体の男子からしてみれば彼女は憧れだった。だからそうとう周りの奴らに憎まれたと思う。けれども僕にとって興味がなかったものだから隣に座ったからといって関係を深めようとも思わなかった。けれど一日の半分に近い時間を一緒にいると色々と気付いたことがあった。彼女は孤独なのだ。孤独と聞くと響きが悪いが彼女は誰とも深く干渉せず誰にも心を開いてはいなかった。それは人間不信などからくる敵意などではなく、他人に依存しない凛とした強さを持っていた。その場にいるだけで圧倒的な存在感を放つ。彼女の底からにじみ出る雰囲気みたいなものがとても眩しく感じられた。そのころ僕は友達と呼べる人が皆無に等しくそれを何度も寂しいと思っていた。

けれど隣にいた彼女は友達も仲間も作らず、仲良しこよしはしない。孤高で凛としていて高貴でもあるどちらともいえない、そんな感覚を彼女に覚えた。

確かに性格はキツいがそんな彼女に僕はいつの間にか惹かれていた。僕みたいな矮小じゃなく小さいことに悩まない、自分の確固たる信念を持ち我が道を行く彼女に尊敬の念に近いものさえ抱いていた。三年生は受験が有るため彼女の隣の席にいられたのは約半年余りだった。その間に僕は彼女と仲良くなることすらまともに話すこともなかった。受験で忙しくなり会う機会なども少なくなった。彼女が何処の学校へいくのかさえ聞かなかった。それから僕は中学を卒業し青南高校に入学した。

青南高校はこの街の周辺にある高校の中で偏差値は上の下といったところで校舎などは地震がきたらすぐに全壊しそうなほどボロいにもかかわらず意外と人気があるらしく倍率が高い。そんな高校にギリギリのラインで合格した僕はこれからまた面倒なことが待っているのだろうと少しだけ憂鬱になっていた。そんな思いを抱いたまま入学式を迎えた僕は驚くことになる。

黒羽──、黒羽柚香は同じ高校に入学していた。半年近く前と同じ圧倒的な存在感と凛とした感じに変わりがなかった。まさかとは思ったがまた中学のときのようにはいかないだろうなと予想した。しかし、運命なのかはたまた誰かのイタズラか同じクラス、隣の席になった。ここまでくると誰かが仕組んだイタズラにしか思えない。

まぁ、嬉しかったのは事実だ。憂鬱は吹き飛び、暗くて何もない僕は少しだけ希望を持った。それが四月の一周目、その週が僕の最後だったとは思わずに。次の週、僕は事件に巻き込まれた。それは台風のように現れ、たった三日間の現実を悪夢に変えた。その三日間、僕は黒羽と行動することになった。一緒にそれを止める為に。協力してくれた人がいるがその人物を紹介するのは後としてそれをなんとか止めることが出来た。いくつかの代償を払うことで。

僕はその事件をへて知ったことがあった。

ひとつは黒羽柚香は魔女だったということ。性格を指す比喩じゃなくゲームとかファンタジー映画とかで出てくるやつ。驚いたけれど僕はただ認識するだけだった。この事件で彼女は中心人物で僕を殺したのは彼女であり、また僕を蘇えらせたのも彼女だ。魔女だからこそできることだと思い知らされる。

黒羽と三日間ともに行動したが強いと思っていた彼女は本当は普通の女の子で弱い一面もあることを知ったし僕だったら耐えられないほどの悲しみを彼女はひとりで背負っていた。

僕が見ていたのは彼女の光の部分だけで影の部分に気付かなかった僕はこのうえないアホと言える。だからといって彼女のことを勝手に失望したわけでなく、これも現実でしか無いため受け入れただけだった。

もう一つ僕が知ったのは彼女が僕のことを好きだったということ。僕がゾンビになったあとで本人の、彼女の口から聞かされた。

『君が好きなの。愛してるとか重たいところまではいかないけれど。良かったら私と付き合ってくれませんか?』と。

隕石が僕の家の前に落ちて、その隕石の落ちた場所から温泉がでてきたくらいの衝撃、破壊力だった。普通なら人の頭を実弾でぶち抜く前に言う台詞だが僕が蘇ることを知っていた黒羽だからこそできることだ。しょうがなかったことなので不満はなければ、答えは一つだった。

こうしてクラスメイトから友人関係という一つの関係を飛び越し僕らは恋人になった。あまり深く関わったことがないのになぜそういう言葉が出てきたのか気になり一度聞いてみた。本人曰く話す機会を何度か伺っていたらしいが大体のチャンスを逃したらしい。

実に理由らしい理由である。恋やら人間関係に関して苦手な僕にとっては未知との遭遇に近い。そう思い一ヶ月たったがやはり彼女の見えないところも見えてきて彼女を徐々に知ることが少し楽しくなってきていた。

しっかりしているようにみえて意外とおっちょこちょいだったり普段は強そうだけどたまに悩んだりと観察すると色々出てくる。

そんな僕と黒羽は恋人同士であり、僕はゾンビで彼女は魔女。

そして僕と彼女は使い魔と主人の関係でもある。

それが僕と彼女との関係だ。

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