76.終わった
『ぎィぃいヤアアアアあああアアああああ悪ああああああ!!』
首にドラゴン、リュントの爪をねじ込まれた『暴君』が、濁った声で悲鳴を上げる。
同情する気はない。その悲鳴の何倍も何十倍も、お前は誰かに悲鳴をあげさせてきたんだから。
「人に付けられた、『暴君』という名。それにふさわしく暴れたあなたは、ここで朽ち果てなさい!」
『ぎゃぎゃギゃぎャあああ!』
「動いちゃだめですよー!」
ぐりぐりと、リュントが爪を動かしていく。このまま、首を切り落とす気だ。
ばたん、ばたんとのたうつ黒い身体の上にナジャちゃんが飛び降りて、多分腰に当たるだろう部分を上から押さえつけた。けどまあ、長い身体だからな……あ、しっぽを振り上げた。
「ナジャちゃん、上から来る!」
「そっちは任せなさいな!」
俺の声とほぼ同時に、グレッグくんが光のブレスを細ーく吐いた。しっぽにぶち当たった金色の光の衝撃でぼきり、と音がする。
……あー、もしかして骨が折れたとかいうか。振り回してきたしっぽとブレス、正面衝突した形になるもんなあ。
「水よ!」
そして、アナンダさんの水の槍がくわりと広がった黒い口の中に突きこまれる。水だからすぐにばしゃりと形がなくなるので、『暴君』がしゃべれなくなったりはしない。
『きさマら、どラゴんの分際、で、おれに、はむカウかああああっ!』
「ドラゴンだから、歯向かうんですよ!」
一度爪を引き抜いて、また別の角度からぶっ刺しながらリュントが叫ぶ。人間には、歯向かうほどの力なんてないものな。一瞬で潰されて終わりだ。
「やーですねえもう! ドラゴンだから! 馬鹿暴走ドラゴンのあなたに! 鉄槌を下してるわけでーす!」
「そういうことだ! もう、卵も無かろう!」
ナジャちゃんが傷ついた黒い胴にかぶり付き、アナンダさんが更に水で……今度は槍じゃなくて太い杭を作って、傷の上から叩き込んだ。うわ痛そう、地面に縫い付けられてのたうつことすらできない。
「今度こそ、あの世に行っちゃってちょうだい! あんたのせいで、ドラゴンには風評被害よ!」
『があああアアあ! ヒトや、小物どモニ、被害など大しタコとではなイわああ!!』
その上から更に、グレッグくんが光を放つ。こうやって照らされると、真っ黒なドラゴンの身体も綺麗なのになあ……中身は、どす黒いけれど。
『世に、どらごんは、おれダケでいいっ! きサマらハ、俺の、えサニっ』
「なりません! はああああああっ!!」
リュントは両手の爪を全部、『暴君』の首に……手首までぶち込んでそうして、全力で両側に、引き裂いた。
どば、と血……これもどす黒い、ドロッとした液体が弾け飛ぶ。
「浄めの水流っ!」
それがどこにもかぶらないように、アナンダさんが水を多く放った。押し流されていく黒い血が、だんだんと水に溶け込んで色を失っていく。
断ち切られた黒い頭と、黒い胴体にも。
『おの、れ、おのれ、おの……れ……』
それでも、しばらくの間『暴君』は呪いの言葉を紡いで、それがゆっくりと小さくなっていって、そうして止まった。
ずぶ濡れになったドラゴンの骸が、そこに横たわっているだけ。
「……私のように、小さい頃にエールに会えていればあなたも、このようにならなくて済んだのでしょうか」
「みゅおう」
リュントの独り言に、俺の頭の上からモモが同意するというように鳴いて答える。まあ、お前もまだ小さいもんな、ドラゴンとしては。
「……終わったか」
「終わったわねえ」
「つかれましたー」
割と空気読めてるのかわからない三人のため息交じりの言葉が、終戦を告げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます