73.落とした
防御が安定したせいか、アナンダさんとグレッグくんの包囲というかそういうのが解けた。お陰で、『暴君』との戦闘をある意味特等席で見ている形になる。
「きゅああああああ!」
「いやっほーい!」
白銀のリュントと水色のナジャちゃん、ふたりのドラゴンが漆黒の『暴君』の周りを器用に飛び回りながらその身体にアタックしている。リュントは人の姿のときは剣だった爪で斬りつけ、ナジャちゃんは……なんで頭突きなんだ。石頭か。
「浄めの水流!」
アナンダさん、一言だけで水の魔術を撃ち出した。水流っていうけどあれ、細い水の槍のような……そのまま『暴君』の外皮とか、牙とか地道に削ってるのすごくないか。
「浄化の光、いっけえええええ!」
『ぎャア!』
一方グレッグくんは、分かりやすく閃光。夜の闇の中、全身真っ黒なドラゴンがぎらりと映し出されるのは迫力満点……って、えらく呑気だよな、俺。そうでなければ、ここにはいられないんだけど。弱すぎて。
「みゅあああああ!」
そうして、俺を守ってくれている最後の砦と言ってもいい、モモのピンク色の可愛らしい光。小さくてもドラゴンだね、うん。
……ただ。
リュント、ナジャちゃんが直接攻撃、アナンダさんとグレッグくんが魔術攻撃と四対一の状況なのに、『暴君』はまるで怯んでいない。少しずつ皮が、鱗が削れていってはいるけれど、でもまだまだ戦えそうだ。
「……これで、何とか互角って……」
「みゅいみゅい」
唖然としている俺の腕を、ペシペシとモモが叩く。気がつくと、魔術組の顔に微妙に疲れの色が見えた。ドラゴンでも、分かるもんなんだな。
「ああはいはい、マジックポーション更に追加ね……と、飲み過ぎ注意ってドラゴンはどうなんですか?」
すぐ側にいるグレッグくんに、問うてみる。人間はあまりガバガバ飲むと、身体に悪いんだけどな。
「ま、十本くらいなら大丈夫ね。二十本も飲むとちょっと酔うけど、アタシ経験あるから」
「どんだけ飲んでんですか」
人間よりは多く飲めるらしい。とはいえ、グレッグくんとかアナンダさんならともかくモモやナジャちゃんにはそこまで飲ませるつもりは毛頭ない、ので怪我しないでくれよ。頼む。
「とは言え、足りないなら飲むしかないもの。ぐだぐだ言ってらんない状況っ……!」
『ほざケエエエエ!』
一瞬動きの固まったグレッグくんが、口を大きく開いて光のブレスを放った。『暴君』の放った真っ黒なブレスと空中でぶつかり、ばんっと弾ける。よし、マジックポーション二本、蓋開いてグレッグくんに投げよう。
「グレッグくん!」
「いっただきい」
ぱくり、ごくん。今度は瓶ごと飲んじゃったよ、いくら飲み込める大きさだからってもう。あとで人型に戻ったときお腹壊したりしないだろうな?
その向こうで、ナジャちゃんが『暴君』の上空に位置を取った。……そういえばうっかりしてたけど、リュントも含めて普通に飛べるのな。いやまあ、リュントはこの村からサーロ近くまで移動してきてるんだから、飛べるか。
「ほざいてるのは、あんたですよーだ」
「きゅい、そのとおりですね!」
そのリュントも、同じように黒いドラゴンの真上に位置している。そこから頭を下にして、ナジャちゃんと同時に落下。ごきり、めきりと『暴君』の脳天に思い切り打撃を食らわせた。
『がガガががぁアアアあアっ!』
ふたりの攻撃をまともに食らったせいもあって、黒い巨体がそのまま地面に叩きつけられた。さすがにその衝撃は防御魔術じゃ消しきれなくて、足元がグラグラと揺れる。
「みょいあ!」
「おわっ」
と、モモの全身がふわりと光って、浮いた。俺ごと。マジか。
「モモ。そのくらいはできるようになったのだな」
「みゅあ!」
アナンダさんが、何となく嬉しそうに笑う。そうか、もしかしてこれ、モモが成長したってことなのか。外見はそのままなんだけど、能力が。
『お、おノレ、雑魚どもノ寄せ集メの分際で……このオレ、に、このよウナっ……』
あ、『暴君』が頭を浮かせた。真っ黒の瞳が血走っているようにみえる、怒ってるんだろうな。まあ怒るか。
あいつはもう、自分が最強とかそういう考えしかない。自分が一番で、歯向かう俺たちは邪魔でおろかで、だから倒してやるという感じで。
コルトが『魔術契約書』で縛った仲間や兵士たちを引き連れて、俺たちの村を襲ってきたのとまるで同じ感じで。
どっちにしろ、止めなくちゃならないのには違いない。
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