60.あつまった

「それにしても。村長さんから話は聞いたんだけど、大変だったなあ。エール」


 くい、と三杯目の酒を飲み干して父ちゃんは、俺に視線を向けた。

 『太陽の剣』時代のことだとすると多分冒険者ギルドから村長さんに話が来て、そこから父ちゃんに伝わったんだろうなあ。

 何か曖昧な言い方なのは、一緒に飯食ってるカルルやミニアに聞かせたくないからか。なら、俺もそれに倣おう。


「まあ、何とか生きてはいたし。それに、それなりに経験も積めたからね」


「兄ちゃん、大丈夫なのかー? 冒険者って、魔物倒したり怖いところに入ったりして大変なんだろ?」


「エールお兄ちゃん、だいじょぶ?」


「おう、大丈夫だぞ。ほら、ちゃんと帰ってきてるじゃねえか」


 カルル、お前も一応この村に来る冒険者は見てるんだろうが。どういう扱いなんだ、と思いつつミニアも含めてどうにか流すことにする。あのときの俺と同じ年になってるカルルはともかく、ミニアにはちょっと言いにくいしなあ。


「本当に、大丈夫なんだな? 冒険者は続けるんだろうが」


「まあな。今はコルトたちとも離れてるし、リュントがいてくれてるから」


 あ、冒険者続けて良いんだ。何かホッとした、と思いつつ父ちゃんに答える。リュントにかなりおんぶにだっこ、ということは内緒だけど……何かバレてそうなんだよなあ。父ちゃん、何だかんだいって母ちゃんにはかなわない人だし。


「みゃう!」


「ああごめん、モモもいるよな」


「モモちゃん、エールお兄ちゃんのことよろしくね!」


 何故か一声鳴いて主張したモモに、ミニアが頭をなでて俺のことを頼んでいる……ああはい情けないお兄ちゃんでごめんよう。これでも、それなりに冒険者として……主に荷物運びで頑張ってるからな。


「大丈夫ですよ、ミニア。エールには私とモモがいますから」


「そうだなあ。リュント姉ちゃんがいてくれるなら、兄ちゃんは大丈夫だな!」


 リュントとカルルにとどめを刺されて、俺はがっくりと肩を落とすしかなかった。いや、自覚はあるよあるんだけど!


「それと、明日くらいからギルドマスターさんが派遣してくれた冒険者たちが集まってくるそうだ。一応の事情は聞いたがな、詳しくはお前が知ってるって」


 おっと。

 父ちゃんが村長さん家に行ってたのは、それもあるのか。

 コルトとフィルミット侯爵家私兵部隊が、ならず者の集団を装って各地のドラゴンの住処を荒らしている。これまでの被害箇所を考えると多分、竜の森に来るのは間違いないらしい。

 なので、俺たちはここで待ち構える。コルトとしては、俺と組んでいるリュントにドラゴン討伐の名誉を奪われたようなものだから仕返しも兼ねて、俺の家族を襲う可能性があるからな。


「ああ。うん、知ってる」


 もっとも、弟と妹にそんな事知られる訳にはいかない。もちろん、近くまでコルトたちが来てるって情報が入れば何とかしないといけないけど……いやまあ、その何とかの一つがギルマスが派遣してくれる冒険者たちであり、グレッグくんが話をつけてくれたドラゴンたちなんだがね。

 ……過剰防衛のような気がしなくもないけど、俺の家族というよりは竜の森を守るためだと考えればいいけどさ。


「ミニア、そろそろ寝ようぜ」


 不意に、カルルが声を上げた。ああ、俺たちに気を使ってるなこいつ。うん、まあお前はともかく、ミニアにはまだなあ。……兄馬鹿と言っていい、その自覚はある。


「えー、眠くないー」


「みあみあ、みゅうう」


「おや。ミニア、モモが一緒に寝てくれるようですよ?」


「え、ほんと?」


 おお、モモ、ナイスアシスト。自分にすりすりとすり寄るからもう、嬉しくて仕方ないだろうミニアよ。


「それじゃあ、しょうがないなあ。おやすみなさーい」


「おやすみー。カルル、頼んだぞ」


「おー」


 モモを抱っこしようとして、さすがに重いのであきらめた。その代わり、並んで歩いていくことにしたようで、二人とカルルはこちらに手を振って去っていった。モモ、カルル、ミニアを頼んだぞ。うん、ほんと兄馬鹿。


「で、エール。リュントさん」


「うん」


「はい」


 俺とリュントの名前を呼んだ父ちゃんの顔は、かなり真面目なものだった。こりゃ、結構きっちり聞いてるか。


「ラライカも、こっち来てくれ。後片付けは俺がやる」


「おや珍しい。……村長さんから、どんな話聞いたんだい」


 母ちゃんのことも呼び寄せて、父ちゃんは俺たちを見つめてきた。そうして。


「その前にひとつ。リュントさん、ドラゴンだね?」


 それは、質問というよりは確認の言葉だった。

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