55.故郷へと向かった
その日のうちに俺とリュント、そしてモモは俺の故郷の村へと出発した。善は急げ、コルトがいつ来るかわからないしということで荷馬車に相乗り、という形である。ついでに、実家に持っていくお土産を大急ぎで調達してみたんだけど、どうかなあ。
「……過保護なんだよな、皆」
「いえ。本来であれば、我らドラゴンより護衛を付けていてもおかしくはありません……というか、私とモモが護衛ですね」
「みゅいみゅい」
俺と並んで座っているリュントと、その膝の上で背負い袋から顔だけ出してるモモが、何か強く主張しておられる。俺は戦闘力がほぼないため、確かにリュントが護衛って言われれば納得はするんだが……モモはさすがに、俺の護衛ってのはおかしくないか? なあ。
それに、守られるのが俺ってのはおかしいだろう。コルトが何を狙っているのか考えるとさ。
「そりゃあ、コルトが俺を見たら殴りには来そうだけどさ。でも、グレッグくんも言ってたけどリュントやモモの方が狙われる可能性が高いだろ。モモ、お前もすっとぼけてんじゃねえぞ」
「みゅ?」
あいつは、ドラゴンを暴走させた上で倒して、自分の『竜殺し』の名誉を取り戻したいわけだ。つまり、人間である俺より実はドラゴンであるリュント、そして分かりやすいドラゴンなモモを狙ってくるほうが可能性があるわけで。
「ですから、モモは基本的に袋の子になっていただいています。本竜も納得済みですからね」
「まあ、故郷の敵を探しに行くわけだから、置いていくって選択肢はなかったしな……」
モモにとってコルトとフィルミット侯爵家は、自分の故郷を焼いた敵だ。そいつらを止め、できることなら潰しに行く俺たちについていく、と意思表示したこの子を置いていくことは、俺たちにはできなかった。
急ぎで出立することを決めて、グレッグくんに挨拶に行った。そうしたら彼曰く。
「あたしの知り合いたちが一応村の近くで張ってもらってるから、やばいと思ったら遠慮なく助けを求めるのよ? リュントちゃんドラゴン形態とかモモちゃんの出番は、本当に最後になさい」
「ですが、私はエールのドラゴンです」
「だからよ」
ことが起きれば遠慮はしない、そういう意味合いでのリュントの『俺のドラゴン』宣言を、グレッグくんはさらりと却下した。
「コルトがそれを知れば、あなたたちを狙わないわけがない。何しろ、探す必要もなくドラゴンは出てくるんだからね。あたしがコルトなら、エールくんをとっ捕まえてひどいことしちゃう」
「なっ」
「ね? そうすればあなた、白銀のドラゴン・リュントが暴走するって寸法よ。コルトは自分とご実家の全力をもってあなたの首を取り、『竜殺し』の名誉に華を添える」
「……」
一瞬だけしっぽがにゅいー、と伸びたリュントだったけど、グレッグくんの言いたいことを理解してすぐにしゅるりと引っ込めた。人には見られてないな、あーあぶない。
要は、リュントがドラゴンであることを知られないようにしつつ、俺を守れってことなんだろうね。
「エールくんのドラゴンであるリュントちゃんは、つまりエールくんにとって最後の切り札と言ってもいいわ。だから、出ないに越したことはないの」
「けど、いいんですか? グレッグくんの知り合いってことは、つまり中にはいるわけでしょう?」
「もちろん。半々くらいだけど、人間の方もそれなりに強いから安心なさいな。侯爵家の私兵部隊かっこ推定、を相手にしてもらうんですもの」
かっこ推定、って思い切り確定してるけどね、って顔で言うんじゃないよ、まったく。
どういう手段使ったのかわからないけど、かなり強い方々においでいただいていることは間違いないな。証拠がなくてフィルミット侯爵家を追い詰められない腹いせ、ではないだろう、さすがに。
「大丈夫。権力ってのはね、使うべきときには盛大に使うものなのよ。領主様も冒険者ギルドも、自分たちの
「わ、分かりました。何かあったら、頼らせてもらいます」
あーうん、そういうことね。
ここはサラップ伯爵家の領地であり、フィルミット侯爵家の部隊が正体隠してるとはいえ入り込んでくるのはある意味侵略だ。
コルトはフィルミット侯爵領の冒険者ギルドに移籍していて、だからこっちのギルドからしたら勝手に入り込んでくるのは以下略。
どちらにしろ、無断で縄張りに入り込んでくる馬鹿野郎を放っておきたくはないので手を打っている、ということか。
どこの領地でもそれは同じことなんだろうけれど、コルトが俺とリュントのせいで『竜殺し』の名誉潰されたと考えているだろうから……あいつはこっちに来る可能性が高い。
だから、俺たちが迎え撃つ。その援護としてグレッグくんは、『知り合い』に働きかけてくれたわけだ。ありがたいなあ。
「お願いね? 名前のない村の村人たちは、竜の森のそばで平和に暮らしている。ドラゴンはそういう人には優しいのよ、リュントちゃんみたいに」
「きゅあ。エールは、幼い私に優しくしてくれましたから」
そうして俺の故郷、名のない村を守ろうとしてくれてる。リュントは、俺を守ろうとしてくれてる。
俺には何もできないけれど、だからありがたく力を貸していただく。
「みゅあいん」
「ふふ。モモちゃんも、コルトなんぞの匂いのないエールくんには懐いてるものねえ」
すり、と首を伸ばして額を俺の首筋に擦り付けてきたモモは、もう俺には遠慮なく懐いてやがる。よほど、コルトの匂いが嫌だったわけだ。そりゃそうだけどさ。
「つまり、コルトの匂いが近くにあればモモちゃんには分かるってことよ。モモちゃん、いやな匂いがしたらリュントちゃんやエールくんにちゃんと言うのよ?」
「みゃい!」
グレッグくんの言いつけにモモは、小さい両手で拳を握って大きく頷いてみせた。このへんの感情表現、人間と共通してるんだよなあ。トカゲ時代のリュントもそうだったから。
まあそんなわけで、俺たちはもうすぐ、俺の故郷の村につく。
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