54.領主直々の依頼が来た
その翌日。
「依頼ですか」
「そう。依頼主はあたしたち冒険者ギルド、およびサラップ伯爵家。こちら依頼書ね」
後付の報酬ではなく、きちんとした依頼が『白銀の竜牙』にやってきた。グレッグくんがひょいと差し出してきた依頼書には、サラップ伯爵家が正式に作った書面であることを証明するはんこがきっちり押されている。まじかー。
「……サラップ伯爵家の印章、確認しました。内容は……」
「エールの故郷の村の様子を見てこい、ですね」
難しい言葉で記されているけど、要約すればわりと簡単な内容である。それを確認したところで、横から覗き込んできたリュントがさっくりとその要約内容を口にした。肩の上には、当然のようにモモが乗っている。
「すげえ大雑把に解釈したな、リュント」
「済みません、エール。ですが、結局そういうことですよね? グレッグくん」
「そういうこと」
いやまあ、そういうことなんだけどね。
竜の森近くにある無名の村。そこに赴き、村の様子および竜の森の様子を調査すること。更に、最近出没している『ドラゴンの住処を荒らす武装集団』について警戒すること。これが、伯爵家からの依頼内容である。
しっかり『白銀の竜牙』宛、となっているので俺の情報を伯爵家は持っているらしい。ま、情報源は目の前にいる金色のドラゴンさんだろうな。……ドラゴン形態は見たことないぞ。リュントが髪の色がドラゴン形態の色だから、そうだと思ってるだけで。
「コルトと実家の暴走の噂を流すときに、領主様とお話させていただいてね。それで、エールくんたち『白銀の竜牙』のお話をちらっとさせていただいたのよ」
「まあ、『太陽の剣』の元メンバーですもんね、俺」
なるほど。コルトの話をするときに、流れで俺の話が出てきてもおかしくはない。グレッグくんとかライマさんとか、俺のこと気にかけてくれてるわけだしね。
「お話するときにちょっと盛っちゃってねえ。領主様、涙浮かべておられたわよ」
「どんな話したんですか」
「ふふふ、内緒」
……口の前に指一本立てて、これはしゃべる気なさそうだな。ま、いいか。もし万が一、領主様にお目通りがかなったりしたら聞いてみよっと。
「でまあ、コルトとフィルミット侯爵家がドラゴンの住処を襲っている……証拠がなくて追求できないけれど、結局はそういうことよね。で、竜の森を狙うのはまあ当然よね、と意見が一致しちゃって」
コルトが実家の力を使って、自分の名誉を取り戻したい。
そのためには、暴走したドラゴンを討伐したい。
なので、ドラゴンの住処を荒らしてドラゴンを怒らせ、暴走させる。
多分この行動原理は合ってるんだけど、何しろ証拠がなくて捕まえられない。
「もちろん、そちらの警戒も強化されているはずですよね」
「当然ね。ただ、リュントちゃんが一緒にいるんだからエールくんに見に行ってほしいな、というのも一致したのよね」
リュントが一緒にいるから、というグレッグくんの言葉には軽く首をひねる。まあ、ドラゴンだから強いってことなんだろうけどさ。
けど、そうすると。
「……ということは、リュントのことも話したんですね」
「サラップ伯爵家って、ドラゴンにはものすごく好意的よ。あたしがギルドにいられるのも、ぶっちゃけ代々の伯爵様と仲良くさせて頂いてるからだし」
「あ、はい」
遠回しに「ええ、話したわよなにか問題でも?」と言われた気がする。というか代々のって、グレッグくん一体いくつなんだろうなあ。ドラゴンの寿命までは、さすがに俺も知らないぞ。
あと、伯爵家がドラゴンに好意的なのは知らなかった……つーか、貴族なんてコルトみたいなんでもなきゃ俺には縁がないっつーの。
冒険者が貴族に縁ができるのは、今回みたいに直接依頼が来るとか、あと偶然出くわすか。魔物に襲われてたところを助けるってのが定番らしいが、普通貴族が出かけるときって護衛がいるよな?
そういうのは、例えば『三羽烏』とか『緑の槍』が詳しそうだから話聞いてみるか、ということで置いといてだ。
「けど、『暴君』のときとかは早かったですよね。対処」
「暴走したドラゴンの恐ろしさも、伯爵家はご存知だもの。判断を誤れば暴走していない
三年前の、もともとの『暴君』が暴走を始めたときのこと。
領主家からは即座に冒険者ギルドに依頼を飛ばし、それで俺たちの故郷の村に数多くの冒険者が入ったんだった。
その中にコルトたち『太陽の剣』もいて……俺は、それに憧れて冒険者になろうとして、コルトの奴隷になってしまった。
ただ、グレッグくんに言われたことを考えるとたしかにそうかもしれない、と思える。グレッグくんやリュントはこうやって普通に生活できているし、人の姿をとらないドラゴンもそのほとんどは平和に暮らしている。
いくら、そういったドラゴンのことを大切に思っていてくれても、暴走した個体にまでその思いをそのまま置いておいたら人間も、そして普通のドラゴンもただでは済まない。だからサラップ伯爵家は、できるだけ早く対処してくれたんだろう。
そうすると、俺たちへのこの依頼もそういった意味合いを持つものかもしれない。今度は、暴走したのが人間のほうだけど。
「何しろ、今回の諸悪の根源は『竜殺し』コルトでしょう。もしかしたら、エールくんに八つ当たりとかしかねないものね。それに、エールくんの故郷の村は竜の森のそばなわけだし」
「エールは、三年前から戻っていませんからね。良い機会だと、私も思います」
「みゅーあ、みゃいみゃい」
「ほら、モモちゃんもそうだそうだと言ってるわよお」
「……」
て、おいこら。金と白銀とピンク、三色ドラゴンズ何言ってる。
依頼にかこつけて、俺に里帰りしろとか言ってるわけか。いやまあ、俺も帰りたいなあとは思っていたけどさ。
つかこの状況って人間一対ドラゴン三、人間が不利に決まってんだろうがそれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます