48.ナーガの話から話が大きくなった

 サーロの冒険者ギルドに戻って、依頼の達成やら何やらの手続きをする。それから俺とリュントは、ちょうどギルドにいてくれてたグレッグくんに話を持ちかけた。


「泥水色のナーガねえ」


 ドラゴンが身内にいる、みたいなことを言っていたグレッグくんなので、ナーガの体色を話せばその異常さははっきり理解してくれるはずなんだよね。そして、当然と言うかすごく難しい顔をして頷いてくれた。


「ナーガの体色って住んでるエリアの水に左右されるけど、ワイティ村近くの川ってそんなに淀んでないわよね?」


「はい。我々が行ったときも、巣のそばを流れていた川はとても澄んでいました」


 ナーガの巣、つまりはゴブリンコロニー。そのそばには川が流れていたけれど、泥水ではなかった。そりゃ、雨が降ったりしてたまにああいう色になることはあるんだろうけれど、あの日はそうではなかったからな。

 泥水色のナーガが、きれいな水の川のそばに住んでいる。つまり、それ以前は泥水のそばに住んでいた個体が、移ってきた?


「じゃあ、別んとこから移住してきたのかしらね。それで、その近くに住んでたゴブリンがやってきたので配下に置いた」


「そんな感じですかね。じゃあどこから、ってなるんですけど」


 グレッグくんも俺と同じ結論にたどり着いたようなので、ならその先の答えを求めよう。以前はどこに住んでいて、どうして移住してきたのかというところを。


「あたしはディフェ村の近くからじゃないかな、って思ってるのよねえ。根拠のない推測だけど」


「ディフェ村って、リュントがドラゴン倒したあそこですか」


「うん。あの近く、沼がいくつかあってね。ドラゴンが暴走したのなら、そこに住んでたナーガが怖がって逃げ出してもおかしくないでしょう」


 なるほど。

 沼はどうしても水が淀むから、そこに住んでいるナーガの体色がそういう感じになってもおかしくはない。

 で、『暴君』が我が子の身体を乗っ取って暴れだしたので、怖くなってこちらに逃げてきたとそういうことか。

 あれ、でもたしか。


「肉食獣とかは、村の家畜を襲っていましたよね?」


「例えば仲間が食われたから逃げる、というのは獣とかでもあるんだけれどね。怖くて逃げ出すっていうのはね、相応の知性がないとできないのよ。ディフェ村近辺から逃げなかった獣や魔物は、そういうのを理解するより前にドラゴンの支配下に置かれていたんでしょうね」


 リュントが俺の代わりに問うてくれた言葉への、グレッグくんの答え。つかドラゴン、どこまでとんでもない存在なんだか。

 いや、俺たちの村でもそこまでの情報はなかった、はず、なんだけど……グレッグくん、知り合いのドラゴンから聞いたのかな?


「できるんですか。『暴君』はそういうの、なかった記憶がありますが」


「そこら辺は、個体差ね。人間だって性格や行動に差があるんですもの、ドラゴンやナーガだってあるわよ」


 ……個体差、というよりは学習なんだろうな、という言葉を俺は飲み込んだ。

 『暴君』とディフェ村のドラゴンが、中身は同じだっていうのはあまり大っぴらにしていい話じゃない。

 少なくとも以前の『暴君』は、そこまで支配とかできてなかった、っけ? あれ、でも魔物とかは襲ってきたよな。でも、あいつらには何らかの魔力とかがかかっていた記憶はなかったけど。

 今考えても、わからないか。当時わからなかったんだし、今になって証拠とか集めるのは無理だしな。


「まあ、竜の森周辺に領地があるそれぞれの家には、冒険者ギルドを通じてそれとなく注意しておくわ」


「よろしくお願いします。ワイティ村以外にも、強力な魔物が移住している可能性もありますし」


「ゴブリンコロニーとかの移転もあるから、全体的に警戒する必要があるかなあ」


 グレッグくんの言葉に、リュントと一緒に頭を下げる。サラップ伯爵領、ヒムロ伯爵領以外にも、いくつか竜の森そばに領地が続いている貴族はあるから、それぞれでしっかり見ていく必要がある。

 あ、そういえば。


「フィルミットも一応その中に入るんだけど……話聞いてくれるかしらね、あの家」


 う、やっぱりその名前が出てきたか。コルトの実家、フィルミット侯爵家。

 領地自体はちょっと離れてるはずだけど……そういえば飛び地があったっけか。コルトの話はアレから聞かないから、実家に帰ってるんだろうなあ、あいつ。


「コルトの実家ですよね。何かあったんですか」


「『魔術契約書』の新規発行があったの。『竜殺し』の名誉回復のためとかなんとか言ってる、って噂も流れてきてるのよねえ」


 で、念のため聞いてみたらかなり怖いことをグレッグくんは言ってくれた。コルトの名誉回復のために『魔術契約書』発行なんて、どう考えてもドラゴンクラスのでかい敵を屠って名を上げる、ってことじゃねえか。

 そうそう、暴走ドラゴンが出てくるわけでもないし……と考えている俺たちを、グレッグくんが冷たく見据える。


「もしかしたら、エールくんとかリュントさんにちょっかい出してくるかもしれないから、警戒だけはしといてね。故郷の村にも、先に警告だけは出してあるけど」


「俺の故郷に?」


「ドラゴンを怒らせて暴走させる、とか単純なこと考えそうじゃない? あたしもドラゴンの知り合いに話はしておくから、そうそううまくいくとは思わないけどほんとに念のため、ね」


 いやいやいや、さすがにコルトもそこまではやらない、よなと言いたいけど否定はできないんだよなあ。

 あいつ、ぶっちゃけ行動の限界分からないし。自分だけではやらなくても、実家の権力とか使うのに躊躇はしないだろうし。


「……一度村に帰るか、リュント」


「そうですね。ご家族に、きちんとご挨拶しないといけませんし」


 何か、リュントの言い方が微妙におかしいけどこれは、ドラゴンの感覚なのかなあ。いや、しらんけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る