47.村を離れた

「本当に、ありがとうございました!」


 村に戻り、ひとまず村長さんに報告した俺たちは深々とした礼を受けた。いやまあ、依頼を達成しただけなんだけど……家畜をゴブリンに取られることがなくなったわけだもんな。まあ、いいよね。


「おかげさまで、ひとまずゴブリンの脅威からは逃れることができました。村の者も、安心して生活できます」


「それはよかったです。でも、一度ゴブリンが来たってことはまた来る可能性もあります。それだけは、忘れないように」


 一応、リュントが釘を刺してくれる。この村はこれまでそういうことがなくて、だから警戒心がなかったせいで今回の依頼に至ったわけだからね。


「は、はい。でも、結界石があるわけですし」


「魔力の手当や、石自体の手入れをしないと効力は弱まる。それを忘れなければ、大丈夫だろう」


 ヴィラが言った通りだ。これは、昔から設置されている街や村でもたまにやらかすことなんでしっかり言っておかないとね。うん。


「結界石の手入れは、よろしくお願いします。魔術師さんがおいでになれば、多分状態とかは把握してくださると思うんですが」


「分かりました。平和な土地だからこそ、ゴブリンコロニーのような事態は起きるということを心に留めておくことにいたします」


 スイナが柔らかく言ってくれるもんで、村長さんの顔が緩んだ。分かりやすいなあもう……見るだけならセリカの方が良いんだろうけど、彼女は口を開いた瞬間西の訛りが炸裂するからなあ。


「そうですね。平和で家畜もよく育っていたからこそ、ゴブリンも狙って来たのだと思いますよ。あちらも生き物ですから、美味しそうな鶏がたくさんいればそりゃ食べたくもなりますよね」


「なるほどねえ。いや、本当にありがとうございました」


 なにげに鶏の被害が多かったということで調べたんだけど、鶏肉と卵がこの村の主産業だったみたい。王都にある店が取り寄せたりするとのことで、つまり品質はいいってことだ。


「こちら、些少ですがお持ちください。依頼報酬とは別に、村からのお礼ということで」


 そして、村長さんが差し出してくれたのは処理済みの鶏肉と卵だった。うはあ、収納スキル持ってて良かった。きっちりお持ち帰りできるし、必要になるまで安全に保存できるしな。


「ゴブリンに渡したくない、美味しい鶏肉ですよ。こちらの卵は色も味も濃くて、オムライスに使うと喜ばれるんです」


「うわ、助かります!」


「うちらにも? おおきに。大事に食べますわあ」


 俺も喜ぶけど、もちろんセリカも喜ぶ。転売は駄目だよ、と視線をやってみると分かってる、と頷かれた。ほんとかね。

 でも、これは自分たちで料理して食べたほうがきっと幸せになると思うんだ。リュントが目をキラキラさせて見てるし……あーうん、何か料理作ってもらおうな、冒険者ギルドで。


「それでは、失礼します」


「次に来るときは、鶏を買いに来ることにしよう。では」


「はい、お待ちしております!」


 俺は普通に挨拶をしたけれど、ヴィラはうまいこと言ったと思う。そうだな、俺たちも次にこの村に来るときは美味しい鶏と卵を買うために来たいな。結界石が壊れたのなんのって、しょうもない依頼だったら怒るよ、村の皆さん。




「で、どうかな」


 村を出て、てくてくと歩く。その道すがら俺は、スイナに尋ねた。

 彼女は俺の質問の意味を分かっていたから、さっくりと答えてくれる。


「ドラゴンの暴走が三年っていう短いスパンで起きたでしょう。ゴブリンみたいな小物ならともかく、ナーガとかの上位の魔物には影響与えたんじゃないかしらね。これは私の推測でしかないけど」


「ドラゴンが暴れるのに乗じて、他の上位が自身の縄張りや勢力圏を広げようと動くことはありますからね」


 スイナの言葉に、リュントが頷く。ははあ、前の『暴君』のときに竜の森でも何かあったな? 一応、当事者だからね。ドラゴンのリュントは。

 今回のゴブリンコロニーに関しては、ナーガが裏にいた。上位の魔物たちがゴブリンなどの下位の魔物を使役して暴れる理由はまあ、自分たちが勢力を広げたいからなんだけど。

 今までゴブリンの被害を受けなかった村に影響が出たってことは、魔物の間に何かあったんだろうかとちょっと相談したんだよね。スイナに。コルトの奴隷だった俺より視野が広いから、考えを聞いたほうが良いと思って。

 で、出た結論が、多分そういうことだ。


「他にも、上位の魔物が動いてるかもしれないってか」


「そして、上位の魔物を狩ることで名声を高めたい冒険者も、やね」


「『竜殺し』コルトなどは、名誉回復のために何をやらかすか分からんぞ」


 ……あーはい、セリカにヴィラ。そうだよなあ、コルトならどう動くんだろうか。

 もしかして、実家に帰ったのもそういうことを考えて、なのかな。何しろ『魔術契約書』をぽいっとくれる実家なわけで。


「けど、フィルミット侯爵領に知り合いはいないぞ。俺」


「うちらもおれへんけど、ギルマスに頼んでみよか」


「そうですね」


 ああもう、冒険者ギルド最強の権力者に色々頼み過ぎな気がするぞ、俺ら。

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