24.準備した

 竜の森に入るために、装備を整える。と言っても俺は荷運び屋なので、主に収納スキルでアイテムをぎゅうぎゅうに詰め込むくらいだけど。

 それと、盾二枚。小型のものを両腕につけて、防御に徹する。兜は重いからな、鉢金をつける。ドラゴンの牙に対しては時間稼ぎにもならないけどね。


「そういや、収納スキルって頑丈になる副次効果あるんだってな」


「そ。しまったアイテムを保護するため、らしいけどな」


 バッケにさっくりと答えて、ぽんと盾を叩く。

 荷運び屋とか、マジックバッグとかは結構丈夫なんだけどこれは収納スキルに、『スキルの所有者・所有物の防御力を上昇させる効果』ってもんがあるからだ。自分でさっき言った通り、入れたアイテムの保護目的だろうなとは思うんだがまあ、よくわからん。


「それで、コルトはお前さんを盾に使ったわけか」


「どうせ戦闘力ないんだから、言ってくれれば俺だって考えるけどさ。盾持たせてポイはさすがになあ」


 冗談じゃねえよなあ、とアードが呟いてくれたのに何かほっとして、本音を口にする。

 収納スキル持ってる、ってことはちゃんと話したんだからさ、盾になれって言われればほんと考えなくもなかったんだぜ? 『暴君』のときだって。

 と、なんだかとっても爽やかな笑顔でリュントがこっちを見てきた。


「もしコルトが無事なのであれば、同じことをしていいですか? エール」


「……死なない程度にしてくれよ?」


「はい、もちろん。死んだほうがマシだと思わせれば良いのですね?」


「いやそっち?」


 なんというか、どんどんリュントが過激になって来てる気がする。もっとも彼女はドラゴンなので、人間とは考え方が違うと言われればそれまでなんだけど。


「姐さん姐さん、よそのギルドの縄張りシマで迷惑かけちゃいけません」


「そうっすよ。ほどほどにして、サラップ領まで持って帰ってからにしましょうぜ」


「少なくとも、ドラゴンの討伐できないだけでプライドずったずただと思いますんで」


 アード、バッケ、チャーリー。確かにそうなんだけど本人がいないからって楽しそうだな、お前ら。

 『太陽の剣』はサラップ伯爵領冒険者ギルドの所属なんだから、こっちで下手な問題起こしたら迷惑でしかない。なので、生きてて脱出できない状況ならどうにかして引っ張り出して連れて帰る。

 ま、コルトのことだからドラゴン倒すまで帰らないとか言い出しそうだけど、そこは何とかしないとな。とりあえず生きてるか死んでるか、ドラゴンはどうしてるのか、その辺きっちり確認くらいはしないと。


 で。

 竜の森そばの村で育った上に『暴君』討伐の場に居合わせた俺なので、ちょっとしたアドバイスをするわけである。ひとまず、バッケに。


「薄い防御魔術と、警戒魔術。森に入るときにかけるのは、それだけでいいよ」


「そうなのか?」


「ドラゴンは魔術に敏感なところがあるけど、防御と警戒なら魔物でもある程度は無意識のうちに展開してるから」


「なるほどなあ。逆に、ガチガチに固めていったほうがドラゴンには気づかれるわけだ」


 簡潔に説明すると、バッケはあっさり理解してくれた。『暴君』のときは、ラーニャがガッチガチに防御固めた上からガロアがかなり範囲の広い警戒魔術ぶつけたんで、あっちから出てきたんだよね。なのでさくっと終わった、とも言うが。

 あれから三年経って……実は、現在は逆に魔術使わずに突入するパターンである。必要に応じて使えば良いわけで、まあそりゃそうだよな。仮にも『竜殺し』率いる、高名な冒険者パーティだしさ。


「それ、『竜殺し』から聞いたのか?」


「いや、俺、竜の森のそばにある村で育ったから。わりと常識だったんだよね」


「あー、ここと似たような環境なわけね。納得」


 だよねー。

 多分だけど、ここの村の人も似たような常識持ってるんじゃないかな。大型の魔物でも大概だけど、ドラゴンなんてとてもじゃないけどただの村人は太刀打ちできない存在なんだから。

 ……リュント見ると、あれそうだっけとか思うけどね。


「森に入る道があるから、そこから入ってったらしいぜあいつら。そのへんから辿ってみるか」


「道をそれたのなら、木の枝とか草とかに後がついてるからわかるだろ。まずは道を行ってみようぜ」


 チャーリーとアードがそう言ってきたので、俺も頷く。で、念のためリュントにしっかり言っておこう。


「リュント、途中で道を外れちゃだめだからね。何か気配があったら、ちゃんと言うこと。一人で行くなよ」


「はい、分かりました。エールに迷惑はかけません」


 にぱっと笑ったのでまあ、納得してくれたかな。

 いやだってさ、この子ドラゴンだから。竜の森はホームグラウンドで、その気になったらドラゴンの姿になったりならなかったりですいすい一人で行ってしまいそうだし。

 それで、今の目標である暴走ドラゴンと間違われたりしたら洒落にならないだろ。


「で、ドラゴンが出たらぶっ飛ばして良いのですね」


「いいけど、三人組と協力しろよ。俺は盾やるから」


「エールを盾になど、できません! 御身とアイテムを守ってください!」


「あっはい」


 一瞬、リュントの頭に角が生えたような気がしたので慌てて返事する。三人組に、お前がドラゴンだってバレたらどーすんだ。

 グレッグくんあたりから、ギルマスとかに伝わって……その後どうなるんだろ?


 あれ、ギルマスの知り合いにリュントみたいのがいるってグレッグくん、言ってたよな?

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