23.到着した
「ご苦労さまです」
馬車は無事、ディフェ村に到着した。グラスウルフの襲撃後はほぼそういうこともなく、荷物もちゃんと無事である。良かった良かった。
村人が避難してるため、人の気配はほとんどない。村の中は定期的に、ヒムロ側の冒険者が警戒に回っているそうだ。
村長さんの家を、仮の冒険者ギルド兼倉庫として開放している。俺たちが運んできた荷物は、収納スキルでしまっておいたやつも含めて全部納品できた。よしよし。
「ヒムロ伯爵領冒険者ギルドより依頼を受け、食料及び武器を運んでまいりました。ドラゴン討伐、どうなっていますか」
「『太陽の剣』が突入して三日経っておりますが、未だ状況は不明です」
ただ、グレッグくんの疑問に答えたヒムロ側の代表さんらしい人の答えに、俺たちは一様に顔を歪めたけどね。
てか、状況不明ってつまり護衛とかサポートとか、そういう連中が行ってないか帰ってきてないか、ってことだし。
「……コルトたちが森に入って、三日か」
「『暴君』のときはどうだったんだ?」
三人組の魔術師、バッケが俺に尋ねてくる。あーうん、『暴君』討伐のときは俺、その場にいたからね。知ってる。
「他の冒険者たちに当たってもらって、場所をほぼ特定して突入したから、たしか一日ちょいくらいで終わったはずだよ」
「だよな。下準備の方が大変だったとか、ギルマスに聞いてるぞ」
これは拳士、武器持たない方で名前はアード。剣持つほうの剣士であるチャーリーと三人で、田舎から出てきたんだと。俺と似たようなもんだった。
ま、連中の素性はともかくとして、だ。
今回のドラゴンは、情報聞く限り多分『暴君』よりは弱い、と思う。森から逃げ出してくる魔物の数とか、それまでの村の被害などを鑑みて、だけど。
だのに、コルトたちが突入して三日も帰ってこないってのは、つまり。
「…………それ、『太陽の剣』、やられてないか」
最悪はそうなんだけどな、チャーリー。でも、まさかいくらなんでもなあ。
「いや、さすがにそれはないだろ。不利な状況になってる可能性はあるかも、だけど」
「村に戻ってこないんかね、そう言う場合」
「コルトたちを追いかけて、ドラゴンが村に入ってきたらどうするよ」
アードの疑問には、こう遠回しというかそういう言い方で答える。
俺に対しては大概なことしてきやがったコルトたちなんだけど、あれでも『竜殺し』で英雄と言われてもおかしくない冒険者なんだ。
被害を広げるなんてこと、するはずがない。そのくらいには俺、あいつらのことは信用してるつもりなんだよね。
……恥ずかしいところ見せたくないから出てこないとか、被害広げたら自分たちの名声が台無しになるとか、そういう考えがないとは言わないけどさ。
ってところで、気が付いた。あいつら、変なところプライド高いから。というかこの三年で増長しまくってるから、まさか。
「その……ヒムロ伯爵領側からの援軍は、あったんですか?」
「それが、出そうとしたら連中、『能力の低い奴らは役立たずだから必要ない』などと」
『あーあーあー』
やりやがった。
『暴君』だって、『太陽の剣』だけで倒せたわけじゃないのに、もう忘れたのか。
「まさかとは思ったけど、マジで言ってたかあいつら」
「申し訳ないわね。うちの冒険者が偉そうにしちゃって」
「いや、馬鹿なのはあいつらだけって、こっちも分かってますからね」
頭抱えた三人組の向こうで、グレッグくんが詫びを入れている。ヒムロ側の代表さんは、うんざりした顔で肩をすくめた。何か本気ですんません。
「なんで、ヒムロ伯爵領側の冒険者は軒並み嫌がってますよ。あんたがた、行くんなら勝手に行ってかまわない、とこちらのギルマスからの通達です」
「ありがとうね。こちらも情報持って帰れ、ってうちのギルマスから言われてるから、助かるわ」
グレッグくんの言葉に、代表さんは「ご武運を」と答えて離れていった。倉庫の中身の最終チェックとか、あるからね。
で、こっちなんだけどさ。
「『太陽の剣』はともかく、ドラゴンどうするんだよ。あいつらで止められなきゃ」
「『太陽の剣』の敗北が認められれば改めて、ヒムロ側で時間を稼ぎつつ次の強力なパーティを探す、といったところだろ。この村の人たちはみんな避難済みだから、多少はどうにかなるって思ってる」
アードの疑問に、バッケが答える。最悪の事態がそれだろうからな……できればその前に、なんとかしたいけど。
ところで、さっきからリュントがおとなしいんだけど。じっと、森の方を見つめている。
場所は違うけど、お前の故郷だもんな。思うところはあるんだろ、うん。
「……エール」
と、彼女が振り返った。三年前、森に返したときの小さなトカゲの面影が、そこにはちゃんとある。
ただ、その目は興味津々というか、やる気満々というか。
「行ってみる? リュント」
「はい。私は行ってみたいです」
だよね。
俺とお前しか知らないけれど、森の中にいるのはお前の同類だ。興味があるのは、間違いないだろう。
ただ、それが事情を知らない三人組にはまあ、恐怖となるか。
「え!? 姐さん、本気ですか!」
「もちろん、本気ですよ。冗談で言えることではありませんし、それに」
平然とバッケに答えて、それからリュントはとっても楽しそうに、ぬけぬけと言ってのけた。
「エールを見下した皆さんの情けない姿を、この目で確認したいものですから」
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